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「リモートセンシング」と言うと人工衛星によるものと思う方も多いが、航空機や、最近ではUAV(ドローン)、地上の車両や船舶によるものまで多岐にわたっている。また、その適用分野も気象や地球環境などグローバルなものから、インフラ維持管理や室内計測など身近なものまで様々である。ここでは、リモートセンシングの見方をこうした範囲まで広げて、その誕生と発展を概観してみることにする。
リモートセンシングはどこから始まったのであろうか。見方によって様々と思うが、空中からのセンシングという意味で考えると、1858年にフランスの写真家ナダールが行った、気球による空中写真撮影に行きつくと考えられる。我が国でも西南戦争時の1878年に偵察を目的とした空中写真撮影を行ったという記録があり、この頃にリモートセンシングの始まりを見ることもできる。その後、1903年のライト兄弟による航空機の発明と実用化、1914年~1918年の第一次世界大戦での航空機による空中写真の本格的な偵察利用により、航空機リモートセンシングは発展していった。そして、1939年~1945年の第二次世界大戦におけるレーダセンサの開発・利用、その後の冷戦期におけるセンサ・プラットフォームの高度化を経て、航空機によるリモートセンシングは飛躍的な進歩を遂げることになった。
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一方で、こうした軍事衛星技術の民間転用も進んできた。最初に利用されたのは気象観測衛星で、米国が1960年に打上げたTIROS-1、1967年の静止気象衛星ATS-1と続き、それぞれシリーズ化され現在まで続いている。我が国でもひまわり1号が1977年に打上げられて以降、気象予報に欠かせない衛星シリーズとなっている。また、地球観測衛星の先駆けとなるのが1972年に米国が打上げたLANDSAT-1であろう。画期的であったのは、その観測画像を基本的に全世界に対して公開したことである。これにより、衛星リモートセンシングの先導研究が我が国も含めた全世界に広がった。その後、1987年打上げの我が国初の地球観測衛星であるMOS-1を始め、各国で多くの地球観測衛星が打ち上げられ、シリーズ化されて、地球規模での科学研究や政策立案の重要な手段として普及していった。加えて、2000年代になると民間企業が製造・打上げ・運用を担い、地上分解能1m~30cmとい高性能を有する商業衛星が出現し、さらに2010年代中頃には重量数~数十kgの超小型・低コスト衛星を多数連携運用する新たなシステムも出現して、民間事業での活用が急速に拡大してきている。
また、前述のように軍事技術開発で飛躍的進歩を遂げた航空機センサは、後に民間転用されフィルムカメラからデジタルセンサへの進化を促した。我が国では先ず、複数波長の光を観測するマルチスペクトルセンサが1970年代から航測会社で運用され、環境調査や防災等の分野で利用された。2000年代にはさらに超多波長の光を観測するハイパースペクトルセンサが導入され、技術研究やさらに詳細な環境調査等に使われるようになっている。レーダセンサは、海外において2000年前後から、主に干渉解析技術を適用した広域地形計測の商業展開に活用されている。我が国ではまだ十分な商業利用には至っていないが、1980年代から国の研究機関を中心にセンサの技術開発や災害時の緊急観測等が行われている。
航空機センサで最も普及しているのは、2000年前後から我が国の航測会社に導入された、デジタル航空カメラとレーザセンサであろう。デジタル航空カメラは本来航空測量を目的としたものであるが、近赤外波長帯のセンサも搭載しマルチスペクトルセンサと同様の画像が得られることから、リモートセンシングでも多々活用されている。また、レーザセンサは航空測量の効率と精度を革命的に向上させた一方、植生の立体構造把握や斜面動態の分析など、リモートセンシングの新たな手法としても活用されている。
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このように、リモートセンシングは長い歴史を持つ一方で近年急速に多様化・高度化してきている。今後も、地理空間情報分野の中核を担う技術として、様々な応用分野での利用展開も含めて進化し続けていくであろう。
2016年11月
※内容ならびに略歴は公開時のものです。