地上測量の発展と現状

長谷川 浩司1984年国際航業株式会社入社、現在同社地理空間基盤技術部生産管理担当部長。測量機器のデジタル化およびGPSの黎明期に地上測量分野に携わり実用化に従事する。2013年度より早稲田大学非常勤講師、ISO TC172/SC6 国内分科会委員。



はじめに
 日本版GPS(Global Positioning System)の“みちびき”2号機から4号機が2017年6月、8月、10月と相次いで打ち上げられた。2010年9月に打ち上げられた“みちびき”初号機と合わせて現在4機となり、日本上空には“みちびき”が常時配置される体制が構築された。これにより2018年4月からはGPS補完機能やセンチメータ級測位補強サービス、サブメータ級測位補強サービスが開始される。さらに、国は2023年度を目途に“みちびき”7機体制を整備し、海外の衛星に頼らない“みちびき”のみでの測位を実現することとしている。
 GPSを用いた測位はカーナビ、スマホなど日常生活に数多く取り込まれているが、地上測量の主幹技術としても利用されている。地上測量というと地面上での狭い範囲の測量をイメージする人もあると思うが、地上測量は空・星・宇宙と密接な関わりがある。ここでは、まず初めに地上測量と空・星・宇宙との関わりについて述べてみたい。

1.地上測量と空・星・宇宙との関わり
(1)大昔の関わり
 地上測量の歴史はエジプトのピラミッド建設に遡ることができるが、その四辺が建設当時の東西南北に一致することには驚かされる。その測量方法は不明だが、星や太陽の観測によったと考えられる。
 ギリシャ人のエラトステネスは、地球の大きさを測った。彼は、夏至の日に遠く離れた2地点での影の長さの違いから緯度の差を求め、2地点間の距離から地球の大きさを求めた。
 日本でも空・星・宇宙の観測である天体観測の名残として、戦後ではあるが一部の一等三角点の近傍に天測点と呼ばれる大きな観測台が設けられ、天体観測が行われた。
 このように、人間は空を見上げて方位、緯度などを知り地上測量を行ってきた。

天測点(栃木県宇都宮市八幡山公園)
(2)現在のかかわり
 さて、話を現在に戻そう。現在の日本の位置はどのように求められているのか?
 ここでは、準星からの電波を利用している。準星は電波を常時発信しているが、その電波は極めて弱い。これを写真に示す巨大な装置・VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉計)を用いて2地点で捕捉し、地点間の相対位置を求めて日本の位置を定めている。また、現代の測量の骨格をなす電子基準点・三角点もこの位置に基づき決定している。
 地上測量は、測量の基準点を起点とし、測点間の角度・距離を測り、高さの差を測り、地道な作業の積み重ねで行われる。しかし、その根幹となる日本の位置は、空・星・宇宙という壮大なスケールを背景に求められていることに目を配りたい。

石岡VLBI観測施設 (出典:石岡VLBI観測施設ライブカメラ/国土地理院WEBサイト)

2.測量機器の進化
 地上測量は、測量機器と計算機の開発・改良とともに進歩してきているが、以下では、特に発展が著しい昭和時代後期以降に限って述べることにする。

(1)トータルステーションの登場
 伊能忠敬による大日本沿海輿地全図作成のように、地上測量は方位または角度と距離を測定し、位置を求める方法で行われてきた。この長らくの方法を革新したのは、1980年代に登場したトータルステーションである。
 トータルステーションの特長は、測角儀と測距儀の機能を合わせ持つこと、測定結果をデジタル的に自動記録できることである。
 これにより測角儀と測距儀の交換等の手間を減らし、かつ機器交換に伴う誤差や観測値の誤読・誤記等のミスを抑制し、作業効率および測量精度を大きく向上させた。
 この効率化と精度向上は測量手法の改定につながった。例えば地籍測量の際の筆界点計測において、従来は角度・距離の2回観測(一対回)を必要としたが1回観測(半対回)が許されるようになった。
 さらに、電子計算機との連携がその後の発展を導いた。トータルステーション登場以前は、手書きの手簿、記簿、計算簿を用い電卓等で手計算をして測量計算を行ったが、それに代わり測量計算の自動化、結果の自動記録が実現した。
 このように地上測量の技術改良と情報処理技術の発展が同期することで、地理情報システム(GIS)の開発を契機とする測量の改革につながった。

(2)衛星測位システムの登場
  1)航法の歴史
 移動体などに用いられる測位方法は、大航海時代以来の羅針盤や天体観測による測位から、ロラン、デッカに代表される地上から発信した電波信号の位相差を用いる測位へ、さらに発信地点を専用の人工衛星とする衛星測位へと進化し、高精度化・シームレス化を際立たせている。

  2)GNSSの歴史
 人工衛星を利用した衛星測位システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)は、現在、様々な国で運用されている。
 GNSSは1960年代にアメリカ海軍が開発したNNSSを起源とする。このシステムでは、衛星通過時のドップラ効果を捉えて測位するため、リアルタイム性を確保できず測位に時間がかかった。そのため地上測量としての利用は普及せず、次世代システムGPSにその役目を引き継いだ。NNSSの地上測量での利用は短期間に過ぎなかったが、ギニアの全土測量のプロジェクトは、日本の測量技術者の活躍の一端としてNHKのドキュメンタリ番組で紹介された。
 GPSは、NNSSの改良発展型としてアメリカ国防省が開発した衛星測位システムであり、その実用化は1980年代後半である。測位に擬似距離測距方式と呼ばれる方式を採用し、衛星軌道を地上約2万mと高く配置し安定させたことで、高速移動体のリアルタイム測位を可能にした。(これが今日のカーナビやスマホ地図サービス等につながっている)。
 GPS衛星からの搬送波は地上測量に利用されている。これは搬送波の位相を測定する干渉測位方式により2地点間の相対位置関係を求めるもので、VLBIと概念的には同様な方式である。

  3)GNSSの特徴
 GNSSを利用した測量は、観測点間の見通しを必要としない、観測の熟練を必要としない、雨天でも、夜間でも、数百km離れていても測量ができる、測量精度が安定しているなど、従来の測量機器(経緯儀、測距儀、トータルステーション等)による測量とは異なる特長を持つため、早くから注目されていた。このため測量分野では1987年には実用されたが、これは1993年の正式なGPS運用開始より先立つこと6年前のことである。
 余談であるが、第3世代の携帯電話で位置情報を通知することが義務付けされ、GPSを用いた測位技術が組み込まれた。以降、GPSの爆発的な利用拡大があり今日に至っている。

  4)マルチGNSS時代の到来
 GNSSとして、米国のGPSそしてロシアのGLONASSが先行して運用されていたが、現在ではこれに加えEUのGalileo、中国のBeido、インドのIRNSSが運用されている。これらの衛星群に日本の“みちびき”を加え、一体に利用する仕組みをマルチGNSSと呼ぶ。
 マルチGNSSにより、衛星への見通しが限られるビル街や山間地などでは、受信が容易になるため、利用の拡大・発展が期待される。

  5)移動体からの測量
 従来、移動体(航空機・自動車・船舶等)からの測量は限られた条件以外できなかった。しかし移動体にIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を取り付けGNSSと合わせて利用することで、移動しながらの測量が可能となった。これにセンサの開発・改良、データ処理技術の向上が組み合わされ、現在では、デジタル空中写真測量、航空レーザ測量MMS(Mobile Mapping System)、ナローマルチビーム測深などの多用途でGNSS・IMUが利用されている。これにより高精度な計測データを広範囲で多量に、かつ迅速に取得でき、合わせて画像データ等を同時に得られるようになった。

(3)地上型レーザスキャナの登場(点から面へ)
 航空レーザ測量やMMSに先立って開発された測量技術に、地上型レーザスキャナを用いた測量がある。
 従来の測量では、GNSSを利用した測量を含めて、測量の対象は1点ずつであった。しかし、地上型レーザスキャナはその常識を覆した。地上型レーザスキャナは、1秒間に数万~数十万回レーザを発射する。このとき、レーザ照射機は水平方向に回転し、同時に直交方向に鏡が回転し、レーザを四方八方に届ける。このレーザの反射光を受光し、所要時間と照射した方向から、反射地点までの距離、位置を計測する。これは、測量の本質を1点に狙いを定めて計るものから、周囲の全てを測るものへと変革した。
 この点から面への発展は面的形状の把握に役立つ。利点はまず計測量の増大として表れる。さらに、人間が見づらい、また意識しづらい対象を自動的に計測することが質的な向上をもたらす。例えば、岩盤上のひび割れから岩盤崩落のリスクを推定する場合、従来なら技術者の観察力が頼みであった。しかし、地上型レーザスキャナは膨大な計測データからの多角的な分析を可能とし、リスク判定を容易かつ高度なものにする。
 なお、地上型レーザスキャナはi-Constructionの実践や室内の自己位置推定などの新しい技術に活用され、利用の範囲を拡げている。

地上型レーザスキャナによる建造物の把握

(4)水準測量の変遷
 2地点間の標高差を測る水準測量は人手を要するものであったが、技術改良を施し、ヒューマンエラーを低減している。

  1)データコレクタの登場
 水準測量では、あらかじめ標高が測られた水準点を起点とし、測りたい地点まで順次、標高を計測する。すなわち、水準点とその前方の2箇所に、伸縮のない精密な定規である標尺を立て、その中間地点に水準儀(レベル)を据える。水準儀で、後方の水準点上の標尺と前方の標尺の目盛りを読み取る。この2地点の読み取り値から地点間の標高差を求める。これを繰り返して目的の地点の標高を測るが、精度確保のためには測点と水準儀の距離を40~50m以下とし、密に測定する必要がある。
 この計測データは、従来は手簿に手書きで記録をし、まず水準儀を据えた観測地点その場で点検計算を行うことが必要であった。データコレクタは、計測データを現場で手入力し、この現場での点検計算の効率化、ミス防止、最終的な測量計算の自動処理を行う目的で開発された。


  2)電子レベルの登場
 現場作業の効率向上とミス防止のため、1990年頃に電子レベルが開発された。電子レベルは人間が標尺の目盛りを読み取る代わりに、水準儀自体が標尺に示されたバーコードを読み取る。これを画像認識により自動的に標尺の値に変換して記録する。また、同時に標尺までの距離を測り記録する。このことで、圧倒的な効率向上と誤読・誤記等のミスの防止が実現された。弱点としてバーコードが木の葉の影となった場合や夕暮れ時の計測困難があるが、従来の目盛りとバーコードを合わせて標尺に示す等の改良で補っている。また、測量精度向上のため、標尺の鉛直からのずれ検出等の技術改良がされている。

標尺バーコード

  3)GNSSの水準測量への適用(GNSS水準測量)
 「水は高きより低きに流れる」という言葉があるが、このとき、わたしたちは「静かな水面の高さはどこも同じ」と考えており、それが常識である。ところが地球上では、遠心力の働きにより緯度の違いによって重力が異なり、また、地下の物質の密度によっても重力が異なる。そのため、仮に琵琶湖で全く水の流れが無かったとしても、北岸と南岸では水面の高さが4mm程度違ってしまう。そこで、水準測量ではこの差を補正して標高を算出、精度を保つよう配慮している。
 この水準点の多くは主要国道沿いに配置されており、その数には限りがある。そのため、水準点から遠く離れた地点、あるいは標高差の大きい地点の標高を測るには、とても手間がかかる。また、水準点から離れるにつれて誤差が大きくなるため、測量作業を慎重に進める必要があり、手間が増える。
 そこで、GNSSを利用して地点単独で標高を求めるGNSS水準測量の技術が開発された。これは3級水準測量への適用が認められ、広く利用された結果、作業が大幅に軽減された(ただし、水準点に近い地点は適用できないなどの制限がある)。
 GNSS測量において、高さは地球の形状に近い回転楕円体からの距離(楕円体高)として求められる。これを水準測量の標高に合わせるために、重力の影響をモデル化したジオイドモデルによる補正が必要である。国はこれまでGPS測量と水準測量そして日本全土の重力分布を測ってジオイドモデルを整備している。より高い精度を求められる水準測量に適用するには、ジオイドモデルの精度向上が必要となる。ジオイドモデルの高精度化は、2018年度から航空重力測量を中心に計画されており、近い将来、水準測量の方法が一新される可能性がある。

おわりに
 駆け足で地上測量の発展と現状について述べてきたが、最後に通信技術、情報処理技術との関係について触れたい。
 ここで、連携例としてネットワーク型RTK-GNSS測量を挙げる。国内に約1,400点ある電子基準点はGNSSの電波信号を常時観測している。ネットワーク型RTK-GNSS測量では、その電波信号に含まれる各種誤差を推算して精度良く測位する。このため、既知の固定点を同時に計測する必要がなく、ワンマン測量が可能となる。また、“みちびき”によるセンチメータ級測位補強サービスでもこの技術が利用され、測位精度数cmが実現される。
 これらは地上測量技術の進歩と、通信技術、情報処理技術などの進歩が連動して初めて実現できるものである。
 2018年度には、いよいよ“みちびき”による各種サービスの運用が始まる。測量の未来が大いに楽しみである。

電子基準点

2018年2月

※内容ならびに略歴は公開時のものです。