写真測量技術の発展

空中写真測量を行う Cessna 208



松岡 龍治1953年生まれ。1978年東京大学大学院工学系研究科土木工学専門課程修士課程修了。1980年~1986年東京大学生産技術研究所勤務。1986年~2000年国際航業株式会社勤務。2000年~2009年東海大学情報デザイン工学部勤務。2009年~国際航業株式会社勤務。現在、同社技術本部地理空間基盤技術部基盤情報グループ所属。



  写真測量技術の発展は、i) 処理に用いる媒体がアナログ写真であるかデジタル画像であるか、ii) 処理においてコンピュータを利用するかどうか、の2点から、以下の3段階に分けられる。
(1) アナログ写真測量の段階
     アナログ写真を用い、コンピュータは利用しない。
(2) 解析写真測量の段階
     アナログ写真を用い、コンピュータを利用する。
(3) デジタル写真測量の段階
     デジタル画像を用い、コンピュータを利用する。
  以下、現在の写真測量に繋がる技術に重点を置き、発展を見ていくことにする。

1.アナログ写真測量の段階
  世界最初の写真測量は、1849年に「写真測量の父」と呼ばれるフランスのAimé LaussedatがパリのHôtel des Invalides(廃兵院)のファサードを撮影した地上写真から透視図法により立面図を作成したことである。これに寄与したのが、その10年前の1839年にフランスのLouis Jacques Mandé Daguerreが発明した銀塩写真法である。ちなみに、印刷物に表れた最初の「写真測量」という語句は、1867年にドイツで出版された建築関係の雑誌で、Albrecht Meydenbaueが用いた「Photogrammetrie」(ドイツ語で写真測量のこと)である。
  さて、写真測量と言えば、空中写真測量を思い浮かべることが多いが、最初の空中写真の撮影は、1858年のNadar(本名はGaspard-Felix Tournachon)によるパリ市街の撮影である。これには、1783年にフランスのMontgolfier兄弟(兄Joseph-Michel、弟Jacques-Étienne)により最初の有人飛行が行われた熱気球が用いられた。残念ながら、この最初の空中写真を用いた写真測量は行われていない。現在では、ほとんどの空中写真の撮影に用いられる有人飛行機の最初の飛行は、1903年にアメリカのWright兄弟(兄Wilbur、弟Orville)によるものであり、19世紀の空中写真は、一部で凧が用いられたこともあったが、ほとんどすべてが気球によるものである。
  ステレオ写真測量が行われるようになるのは、20世紀に入ってからである。1838年にイギリスでCharles Wheatstoneにより立体鏡が考案されていたが、立体鏡を基にして3次元計測ができるような機構を備えた最初の装置は、1901年にドイツのCarl Pulfrichが開発したステレオコンパレータである。翌1902年には、カナダのÉdouard-Gaston Daniel Devilleが最初の地上写真測量用図化機を開発している。
  1909年には、ドイツ写真測量学会が設立され、翌1910年には、国際写真測量学会(現在の国際写真測量・リモートセンシング学会)がウィーンで設立されている。このように、写真測量学は100年余りの歴史がある。
  2回の世界大戦があった20世紀前半、飛行船や飛行機は軍事技術として格段に進歩した。航空カメラや図化機は、ドイツのCarl Zeiss社(1846年に光学機器メーカとして設立、1890年に写真測量部門を設置。写真測量部門は、Z/I Imaging社を経て、現在Hexagon社)やスイスのWild社(1921年設立。Leica社を経て、現在Hexagon社)など、ヨーロッパのメーカを中心に開発が進められていった。そして、空中写真測量は、平板測量に取って代わり、地図作成の一般的な手法となった。

2.解析写真測量の段階
  最初のデジタルコンピュータに関しては諸説があるが、遅くとも1946年までには開発された。写真測量でコンピュータを利用しようという試みは、1950年代に空中三角測量において始められ、1960年代には、現在では標準手法となっているバンドル調整法が利用され始めた。また、デジタル写真測量の標準的な幾何歪みモデルとして用いられているBrownのモデルは、アメリカのDuane C. Brownの1950年代から1970年代にかけて行ったカメラキャリブレーションに関する研究が基になっている。
  1950年代には、GISの発展に伴って、デジタル地図データの需要が拡大したこともあり、アナログ図化機とコンピュータを組み合わせた解析図化機の開発が始まった。最初の解析図化機は、1957年にカナダのUno Vilho Helavaによって開発されている。その後、解析図化機は、標定、編集の機能も併せ持つDigital Photogrammetric Workstationとなっていく。
  1990年代には、一般向けに普及し始めたGPSを、IMUとともに撮影用の飛行機に搭載し、空中写真の撮影位置と撮影方向とを計測することにより、地上基準点をほとんど必要としない空中三角測量方式も開発された。この技術はデジタル写真測量でも用いられている。

アナログ図化機を用いたデジタル地図データの取得(解析図化機の誕生前)

3.デジタル写真測量の段階
  1980年代になると、デジタル画像処理技術の発展に伴い、ステレオ対応点をコンピュータにより計測しようとする研究が活気を帯びてきた。ただし、デジタル画像を直接取得するカメラがまだ普及していなかったため、撮影されたアナログ写真をスキャナでデジタル化したデータや、地上写真測量では、ビデオカメラの電気信号をA/D変換機でデジタル化したデータが使用された。
  当初のステレオ対応点の探索では、相関係数を用いた画像相関法が用いられていたが、1980年代前半には、高精度な計測ができ、現在のデジタル写真測量での標準手法となっている、最小2乗マッチング法が提案された(1982年Wolfgang Förstner、1983年Friedrich Ackermann、1985年Armin Gruen)。
  地図を作成するための航空デジタルカメラは、大判の撮像素子を製造することが難しかったため、21世紀になるまで登場しなかった。これに対し、1990年代には普及し始めた一般向けデジタルカメラは、地上写真測量のデジタル化を推し進めた。PCの性能向上や、キャリブレーション機能を有する写真測量ソフトウェアが無料あるいは安価で提供されるようになったこともあり、専門家だけでなく一般の人も、3次元計測を行うことができるようになっていった。
  最初の実用的な航空デジタルカメラが紹介されたのは、2000年の国際写真測量・リモートセンシング学会であった。4枚の2次元CCDを利用したZ/I Imaging社のDMCと1次元CCDを利用したLeica社のADS40の2機種である。これらの機種が実際に利用されるようになったのは、翌年以降であったが、その後Vexcel社によりUltraCamも開発され、現在では、航空アナログカメラのほとんどが航空デジタルカメラに取って代わられている。

デジタル航空カメラ DMC
  2010年代になると、空中写真の撮影手段として、安価で高性能なUAVが登場し、コンピュータビジョン分野で開発されたSfM(Structure from Motion)ソフトウェアが無料あるいは安価で利用できるようになったこともあり、地上写真測量に限らず、空中写真測量も一般の人が行えるようになった。
  現在のデジタル画像処理では、自動でDSMを作成することはできるが、十分な精度で地物を認識することができないため、地図の作成を自動で行うことはできていない。今後は、対象物の自動認識技術を取り入れたデジタル写真測量の段階に進むと思われる。

2016年11月

※内容ならびに略歴は公開時のものです。