時間参照系

はじめに
地理情報は「どこ」に「なに」があるか、それはどのような「性質」を持つかを示す情報と言われますが、地球上にあるものは多くの場合、生成し、変化し、消滅し、別のものに置換されることがありますので、「いつ」や「なぜ」も大事な要素です。ここでは「いつ」を示す仕組みである時間参照系について、解説します。

時間参照系
「いつ」については、多くの場合、1)年代区分の序列や階層の中のどこにあたるか、2)年月日、時分秒といった、複数の単位で示す数の組み合わせのどれするか、そして、3)時間の進行を示す連続的な1次元空間の中のどの座標にあたるかで示されます。空間や時間の中の位置を参照する(指定する)ための仕組みのことを、参照系 (reference system) といいますが[1]、上で紹介した3種類の「いつ」を表現するための参照系は時間上の位置を参照する時間参照系です。時間に関する規則を定めた国際標準である『ISO 19108:2002 Geographic information – Temporal schema』には、時間参照系のフレームワークを示す規則が含まれています[2]。そしてこの国際標準を日本語に翻訳し、若干の修正を加えて日本産業規格『時間スキーマ』が、国際標準と整合する規格として制定されています[3]。ここでは、3種類の時間参照系について説明し、次に、それらをフォーマルに記述する方法を紹介し、最後に若干の補足事項を述べます。

1)順序時間参照系
空間的な場所の位置付けに都道府県、市区町村、町丁目を使用するのと同様に、時間の中の位置付けをするために、地質時代区分や、有史以降の歴史的な年代の区分などが使用されています。これらは順序時間参照系と呼ばれ、年代区分の順序や階層を示すリスト(例えば地質年代表や日本史の年代表)が参照系になります。

2)暦と時計による参照系
私たちは日常、暦や時計を使って、年月日時分秒といった、異なる単位の数の組み合わせで、日付と時刻を表現しています。今日ほとんど全世界で通用する暦はグレゴリオ暦ですが、イスラエルなどユダヤ教の地域には、旧約聖書に基づき、世界が創造されたとする、西暦紀元前3761年から年月日を数えるユダヤ暦、イスラム圏では純粋な太陰暦であるヒジュラ暦、さらには今日でも歴史や天文等の分野で利用されているユリウス暦など、様々な暦があります[4]。日本においては、世界でも稀な例として、元号(年号)を含む和暦が、今日でも使われていますが、これは、明治6年以降はグレゴリオ暦と互換性をもつ暦になっています。時刻については、協定世界時(UTC)が世界的に普及しており、ほとんどの地域ではこれに時差を加えて使用していますが、暦によっては、1日の始まりが午前0時ではなく、日の出や日の入りなどになる場合もあります。

3)時間座標参照系
単一の基本単位の倍数として、特定の始点からの時間位置を示すための時間参照系を、時間座標参照系と呼びます。国際的な単位系であるSI単位系では秒が基本単位です[5]。また、天文学や、異なる暦の日付の換算などで使用されるユリウス通日(ユリウス暦の項を参照のこと。ユリウス日ともいう。)では、日を単位とした実数で時間位置を表します。ユリウス通日の始点(暦元)はユリウス暦の 紀元前4713年1月1日の正午(世界時)です[6][7]。

時間参照系のフォーマルな記述
XML(拡張可能なマーク付け言語)で地理データを記述するための標準として『ISO 19136―Geography markup language (GML) 』[8] がありますが、この標準はISO 19108を引用していますので、上で紹介した3種類の「いつ」をXMLによって記述することができます。

補足
情報処理の分野などでは、グレゴリオ暦とUTCによる日付と時刻の表記法を示すために、ISO 8601という国際標準が広く使われています[9]。また、地理情報標準の中には、座標参照系、つまり、空間的な位置を座標で示す参照系や、ISO 8601を引用して時間参照系を記述するための標準としてISO 19111があります[10]。さらに、この標準に準拠して、時間参照系の定義をWKT(Well-Known Text)という形式で表記するためのISO 19162という標準[11]があります。これらの標準によれば、ISO 8601に準拠する日付と時刻の組み合わせ(date time)や、整数値(temporal count)もしくは実数値(temporal measure)で時点を表記することができます。ただし、これらの標準に準拠する限り、仮想的なグレゴリオ暦 (proleptic Gregorian calendar) 以外の暦を使用することは困難であり、また、これらの標準には順序時間参照系に関する規則は含まれていません。なお「仮想的なグレゴリオ暦」はISO 8601に整合する日本産業規格JIS X 0301で使用されている訳語であり、先発グレゴリオ暦とか遡及グレゴリオ暦ともいわれます。

[参考文献]
[1] 国際標準化機構 (2014) ISO 19115-1: Geographic information - Metadata - Part 1: Frameworks, ISO
[2] 国際標準化機構 (2002) ISO 19108: Geographic information - Temporal schema, ISO
[3] 日本産業標準調査会 (2004) JIS X 7108: 地理情報 - 時間スキーマ, 日本規格協会
[4] 正宗聡(2013)『暦と時間の歴史』丸善出版、pp.201-203
[5] 日本産業標準調査会(2000)国際単位系(SI)及びその使い方、日本規格協会
[6] 国立天文台、ユリウス日、https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/date2jd.cgi
(2022年6月30日 閲覧)
[7] 佐藤正幸(2009)『世界史における時間』山川出版社、pp.18-36
[8] 国際標準化機構(2020)ISO 19136: Geographic information - Geography Markup Language (GML)
[9] 国際標準化機構(2000)ISO 8601 Geographic information - Data elements and interchange formats - Information interchange - Representation of dates and times(注:この規格は2019年に改訂され、拡張形式の表記法を加えて2部構成になっている)
[10] 国際標準化機構(2019)ISO 19111: Geographic information - Referencing by coordinates
[11] 国際標準化機構(2019)ISO 19162: Geographic information - Well-known text representation of coordinate reference systems

(2022年08月30日 初稿)

English

temporal reference system

定義

時間参照系とは、時間の中の位置を参照する(指定する)ための仕組みを指します。