座標参照系

国際的な地理情報標準であるISO 19111:2019 [1]では、座標参照系は「原子 (datum) によって対象物に関係付けられた座標系」と定義しています。この場合の原子は atom ではありません。測地学の分野では datum を原子と翻訳しており、ISO 19111:2019 では「座標系の原点の位置、スケール、そして方位をあらわすパラメータまたはパラメータの集合」としています。スケールはこの場合、計測単位を指します。 つまり、座標参照系とは、原点の位置、計測単位、そして方位を表すパラメータを裏付けにして、対象物となる地球上の位置を示す座標系のことです。例えば、地球上の位置は経緯度で表現することができますが、これは、地球の形を回転楕円体で近似し、その中心を原点とし、メートル単位で示した長半径や、扁平率といったパラメータを裏付けにする座標参照系に従います。なお、座標参照系はCRSと記されることもあります。

原子には、測地原子、鉛直原子、工学原子、時間原子、そしてパラメトリック原子があります。ただしISO 19111:2019では、測地原子は測地参照フレーム、鉛直原子は鉛直参照フレームと言い換えています。
測地参照フレームは、地球上の位置を、経緯度など2次元の座標や、地心座標など3次元の座標と関係付けるパラメータ群です。
鉛直参照フレームは、特定の場所の平均海面の高さをパラメータとする、標高のための参照フレームです。
工学原子はローカル原子とも呼ばれ、局地的な空間中の建築物や土木構造物などの位置をローカルな座標と関係付けるパラメータ群です。なお、ローカル座標の原点に対応する測地座標など、工学原子と測地参照フレームとの関係がわかれば、対象域のローカル座標全体を測地座標に変換することができます。
時間原子は時間座標系と対象物との関係を示す原子です。時間の変化を含むパラメータを定義する動的座標参照系を記述するために使用します。例えば、大陸移動や、氷床による地殻の上下動(アイソスタシー)などを考慮すると、動的な座標参照系が必要になると言われています。つまり、地球の形を近似する地球楕円体の長半径や扁平率は時々刻々と変化するので、任意の時点でこれらのパラメータを知ることができるようにするためには、その前提として時間参照系で時間を定義する必要がある、ということです。自動車や航空機などの移動体の時間座標を記述するときにも時間参照系が使用されます。ちなみに、時間変化を考慮しない、従来の座標参照系は静的座標参照系と言われます。
パラメトリック原子は、気圧や密度など、非空間的なパラメータ値と1次元の座標系を関係づける原子です。気圧高度計による高さの測定や、海水の密度から水圧を推定し、水圧測深を行うときなどに使用します。
それぞれの原子によって定義された座標参照系は、例えば測地座標参照系とか鉛直座標参照系などと呼ばれますが、測地座標参照系は地理座標参照系とも言われます。

さて、座標参照系には「単一座標参照系」と「複合座標参照系」があります。単一座標参照系は、1つの原子によって規定される座標参照系です。一方、複合座標参照系は、複数の座標参照系を組み合わせて一体として扱う場合に用います。単一座標参照系の例としては、日本測地系2011 (JGD2011) を測地参照フレームにして経緯度座標を記述する、2次元の座標参照系があります。また、複合座標参照系の例としては、JGD2011を測地参照フレームとする平面直角座標系に加えて、東京湾平均海面を鉛直参照フレームとする標高を記述する、3次元の座標参照系があります。さらに、動的な座標参照系を示すためには、時間原子を含む複合座標参照系が使われ、座標の次元は最大4になります。

参考文献
[1] ISO 19111:2019 Geographic information ― Referencing by coordinates
注:日本規格協会グループのホームページ(2021-10-12 確認)
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO%2019111:2019
によると、タイトルの日本語名は「座標による空間参照」となっており、旧版 ISO 19111:2007 (JISX7111:2014) のタイトル Spatial referencing by coordinates がそのまま使用されているようである。

(2021年10月25日 更新)
(2016年11月02日 初稿)

English

Coordinate reference system

定義

座標参照系とは、原子 (datum) によって対象物に関係付けられた座標系のことです。