村上広史の世界

インタビューと編集:太田守重

村上広史先生は、国土地理院にお勤めになりながら、国際連合など、世界の場でご活躍になり、ついには国土地理院長に就任されました。そして、退官後は青山学院大学の教授として活動されています。2023年5月25日に、オンラインで行われたインタビューは、最初は天文学に興味を持たれたというお話から始まり、先生が体験されてきた世界や、お会いになった人々についてお話くださると共に、今後の社会のあり方に関するお考えまで、多岐に渡るものがありました。

ここでは、インタビューの内容を9編の映像にまとめました。それぞれの映像の中で補足すべきことがある場合は、映像ごとに注をつけました。その文責は太田にあります。

村上広史先生の略歴

1983年 東北大学大学院博士前期課程修了(地球物理学)
国土地理院入庁
1988年 ジョージア大学地理学部に留学し、博士号(Ph.D.)取得
1997年 企画部地理情報システム技術調整官
1999年 企画部地理情報システム推進室長
2001年 国際連合本部広報局地図課長、その後組織改正によりPKO局地図課長
2005年 測図部管理課長
2009年 企画部企画調整課長
2012年 企画部長
2015年 参事官
2016年 院長就任、2018年に国土地理院退官
2018年 公益社団法人日本測量協会参与に就任、2019年に退任
2019年 青山学院大学地球社会共生学部地球社会共生学科教授就任
国際航業株式会社上席フェロー就任

地球物理学との出会いと、国土地理院への就職

赤祖父俊一 (1930 -)
地球物理学者。1953年に東北大学理学部地球物理学科卒業。1986年から1999年まで、アラスカ大学地球物理研究所の所長。赤祖父はオーロラがある狭いところから急に光り始め、明るくなったオーロラが急速に極方向や西方向に広がるという一定の秩序があることを見いだした。この一連の発達過程はオーロラ嵐(Auroral Substorm)と呼ばれる[1]。



ジョージア大学への留学と、学位の取得

Roy A. Welch
1971年にジョージア大学地理学部の教員になり、1983年にリモートセンシングと地図科学の研究所(現在は地理空間研究センター)を設立。2003年まで所長を務めた。2016年に、ASPRS(American Society of Photogrammetry and Remote Sensing)から生涯功労賞(Lifetime Achievement Award)を受賞[2]。



地球地図プロジェクトの発案と実現

尾田栄章(1941 -)
京都大学大学院修了後、1967年に建設省入省。アルメニア地震、ロマ・プリエータ地震、阪神淡路大震災では現地に派遣されるなど危機管理に携わる。1996年に河川局長に就任し、河川環境を目的に加える河川法改正を主導。1998年退職後、河川環境保全のNPO法人を設立。2000年には第3回世界水フォーラム事務局長をボランティアで務めた。2013年より福島県の任期付職員として広野町役場に勤務[3]。

John E. Estes (1939 - 2001)
1969年にUCLAで博士号を取得し、まだ大学院生でありながら、UCSBの講師としてリモートセンシングのクラスを開講し、その後教授に就任した。彼の主な研究分野は地球資源分析のためのリモートセンシング及び地理情報システム技術の基礎と応用であり、約250編の論文を発表している。博士が亡くなった時には、地球地図国際運営委員会(The International Steering Committee on Global Mapping)はウェッブサイト上で特別号を発行し、追悼ページを公開した[4]。



国際連合PKO局地図課への出向と職務

エチオピアとエリトリアの国境
以下に示す外務省のホームページをみると、エチオピアとエリトリアの国境は「2002年4月に(地図上の)国境線確定」とある[5][6]。



UN-GGIMとの関わりと、測地系の世界統一に関する総会決議

UN-GGIM
United Nations - Committee of Experts on Global Geospatial Information Management
地球規模の地理空間情報管理の推進と、災害リスクの軽減と管理のための地理空間情報の活用を促進することを目的とした組織。2011年に国連経済社会理事会の決議によって発足した。UN-GGIMは、世界各国の政府機関、学術機関、民間企業、国際機関などからなる幅広いメンバーで構成され、会議やワークショップなどの開催を通じて、地理空間情報の活用に関する知識や技術の共有、協力関係の構築を促進している[7]。

世界測地系の統一に関する国連総会決議
持続可能な開発のための世界測地参照フレーム(A global geodetic reference frame for sustainable development)というタイトルで2015年2月26日に国連総会の決議が採択された[8]。



地理空間情報活用推進基本法の成立について

基盤地図情報
電子地図における位置の基準となる情報のこと。基盤地図情報と位置が同じ地理空間情報を、国や地方公共団体、民間事業者等の様々な関係者が整備することにより、それぞれの地理空間情報を正しくつなぎ合わせたり、重ね合わせたりすることができるようになる。この結果、地理空間情報をより一層効率的に、高度に利用することが可能となる、とされている。ただし、村上先生は、インタビューの中で「中二階」という例え話をされ、更に詳細な位置把握を可能とする基盤情報の必要性を指摘している[9]。



精密ジオイドの構築について

航空重力測量
日本の標高の基準は、測量法で平均海面と定められている。この平均海面を仮想的に陸地へ延長した面をジオイドという。衛星測位で決まる高さ(楕円体高)からジオイド高(平均海面からジオイド面までの高さ)を引くことで、簡単に標高を求めることができる[10]。
そこで、国土地理院は、航空機に重力計を搭載し、上空から重力を測定する航空重力測量を2018年度から実施している。地上重力測量と比べて、広範囲を効率的に測量することができ、山岳部や沿岸域などの地上重力測量では測定が困難な場所でも測定することができる。航空重力測量で取得した重力データは、高精度な重力ジオイド・モデル(精密重力ジオイド)の構築に活用し、国土地理院は2023年度中に精密重力ジオイドを試験公開する予定である[11]。



青山学院大学教授としての思い



地理空間情報社会について



編集後記:太田守重
村上先生に私が出会ったのは、1990年代の後半だったと思います。当時私は1994年に設立された、国際標準化機構の専門委員会211(ISO/TC 211)による、地理情報標準の制定に参加させていただくと共に、国内においては、ISO標準のJIS化や、そのダイジェスト版としての地理情報標準プロファイル(JPGIS)の検討をはじめとする、地理情報標準の普及活動に関わっていました。そして、これら一連の活動において、国土地理院の代表者のお一人として、村上先生がいらっしゃいました。お付き合いはそれ以来、断続的ですが、30年程になります。

今回のインタビューでは、これまで折に触れて伺ってきたことを、さらに深く知ることができました。また、さまざまなお仕事が、どのような繋がりをもって社会に役立つ仕組みに成長しているかを知る上でも、参考になりました。村上先生の益々のご活躍を願っております。

編集協力:佐藤潤、細田隆樹

参考資料
[1] 海老原祐輔(2016)『なぜオーロラ爆発が起こるのか?』
https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/~ebihara/interpretation_aurorabreakup.html
(2023-06-07 確認)
[2] ASPRS (2016) "ASPRS Honorary Lifetime Achievement Award"
https://www.asprs.org/wp-content/uploads/IGTF-2016-Awards-Program-Final.pdf
(2023-06-07 確認)
[3] 尾田栄章(2014)『根本に遡って物事を見つめる』
https://committees.jsce.or.jp/education05/system/files/%E7%AC%AC10%E5%9B%9E_%E5%B0%BE%E7%94%B0%E6%A0%84%E7%AB%A0%E6%B0%8F_%E6%A0%B9%E6%9C%AC%E3%81%AB%E9%81%A1%E3%81%A3%E3%81%A6%E7%89%A9%E4%BA%8B%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%A4%E3%82%81%E3%82%8B_0.pdf
(2023-06-07 確認)
[4] Keith Clarke (2001) "John (Jack) E. Estes, Geography: Santa Barbara"
http://texts.cdlib.org/view?docId=hb987008v1&doc.view=frames&chunk.id=div00016&toc.depth=1&toc.id=
(2023-06-07 確認)
[5] 外務省(2022)『エチオピア連邦民主共和国』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ethiopia/data.html#section1
(2023-06-07 確認)
[6] 外務省(2021)『エリトリア国』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eritrea/data.html#section1
(2023-06-07 確認)
[7] Statics Division, United Nations Department of Economic and Social Affairs, "UN-GGIM"
https://ggim.un.org/
(2023-06-07 確認)
[8] United Nations General Assembly (2015) "Resolution adopted by the General Assembly on 26 February 2015, 69/266 A global geodetic reference frame for sustainable development"
https://ggim.un.org/documents/A_RES_69_266_E.pdf
(2023-06-07 確認)
[9] 国土地理院『基盤地図情報とは』
https://www.gsi.go.jp/kiban/towa.html
(2023-06-07 確認)
[10] 国土地理院『ジオイドとは』
https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_geoid.html
(2023-06-07 確認)
[11] 国土地理院『上空で重力を測る』
https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_ags.html
(2023-06-07 確認)