その問題、デジタル地図が解決します -はじめてのGIS

書評




『その問題、デジタル地図が解決します -はじめてのGIS』
中島円著
発行:ベレ出版
発売日:2021/3/19
2,310円(電子書籍 2,090円)


 現在のスマートフォンにはGPSによる位置取得が標準機能として搭載され、GoogleマップやGoogle Earthに代表されるような地図アプリも無料で利用することができるため、私たちは日常的に自分の現在位置をスマートフォンの地図上で確認し、目的地までの経路を地図アプリに案内をしてもらうことができる。一方で、私たちが実現したいことが現状の地図アプリで全て実現可能かというとそのようなことはなく、例えば、行きたいお店の情報が地図アプリには掲載されていない場合や、自分の主旨に合うような検索を地図アプリがしてくれない場合もある。そのような場合に、GISには様々な機能が用意されており、地図上に載せるコンテンツをGIS上で自由に追加することもできる。GISを活用できれば、私たちはより臨機応変に実現したいことを達成できる。本書は、GISを使いたいと考えている人やGISに関する技術を習得したいと考えている人を対象に、「与えられたミッションを達成する」ことを通してGISの様々な機能の使用方法や技術の習得に必要な知識を学べる内容となっている。
 本書の特色として、3つの点が挙げられる。まず1点目として構成の面白さが挙げられる。上述の通り本書はミッションの達成を通して様々な技術や知識の習得を目指しているため、「デートプランを考えろ!」「楽器が演奏できる場所はどこだ?」「古民家で新しい働き方を見つけよう!」「焙煎工場を併設した高級カフェの出店計画を提案してくれ!」「オンリーワンの台湾旅行を企画しろ!」「想定を超えた大災害に備えろ!」による6つのミッションから構成されている。これまでの多くのGISに関する技術習得本は「・・・を作図する」「・・・の空間解析を行う」「・・・図を作成する」など、GIS特有の操作を行うこと自体が目的化した目次構成となっているものが多かった。このような場合、技術や知識を身につけることはできるが、読後に自身で課題を設定し解決しようとした時にどのようにGISを駆使すればよいかの応用力が十分に身につかない場合がある。その点、本書の構成は一瞬奇抜なようにも思えるが、実際の生活の中で実現したいことに主眼を置いた構成となっているため、読者が自身で課題を設定した際の課題解決の道筋がイメージしやすいのではないかと考える。
 2点目として、各ミッションの内容やミッション達成の難易度設定のバランスの良さが挙げられる。例えば、本書での最初のミッションは「デートプランを考えろ!」だが、このミッションを達成するための「レッスン」として、「地図をあつかう」「GISの仕組み」「地図データ」「ジオコーディング」「ネットワーク解析」の5つが用意されており、GISの習得に必要な基礎知識を学びながらミッションが達成できるようになっている。2ndミッションである「楽器が演奏できる場所はどこだ?」では、地物から等距離にあるエリアを発生させる「バッファリング」や「属性データを利用したバブルチャートの作成」など、GIS特有の機能を一つずつ学ぶことができる。そして、4thミッションでは「ボロノイ図の作成」、5thミッションでは「数値標高モデルの利用」など、個人的には結構難易度が高めの機能も使いながらミッションを達成するようになっている。このように、難易度を少しずつ上げながら達成可能なミッションを破綻なく設計するのは難しかったのではないかと推測するが、それが実現できている点が素晴らしいと考える。
 3点目として、ミッション達成に向けて使用する地図データの豊富さが挙げられる。GISを利用する上で地図データは必要不可欠な存在だが、本書では無料で利用可能な様々なオープンデータが取り上げられており、本書の楽しさの一つになっていると考える。特に、3rdミッションで登場する「迅速測図」「伊能図」「海図」などは、GISや地図に興味のある読者にとってはとても興味を惹く地図データではないかと思われ、これらの地図データを読者自身が実際に利用できるのはとてもよい体験になるのではと思う。また、オープンデータの整備が進んでいる台湾の地図データが紹介されていることや、近年気候変動により甚大な自然災害が多発していることを踏まえてハザードマップが取り上げられていることも、本書を通して読者がGISを習得する上で重要な点であると考える。
 GISを学ぶことがなぜ必要なのか?と考えたときに、個人的には「いままでできなかったことができるようになることによって、便利になったり新たな発見を得られたりできる」「地理空間情報に対する知識と関心が高まることによって、災害発生時などに自身で対応策を考えるための素養を身に付けることができる」点があるかと考える。巻末で述べられている通り、近年オープンデータの普及が進み、無料で様々な地図データが利用できる環境が整備され始めている。加えて、本書でも採用しているQGISのような無料のGISソフトウェアも以前と比べて初学者にも使いやすいように改良がされている。本書によって多くの人がGISに触れ、GISに対する知識と応用力を身に付けてくれることを期待したい。将来私の子供たちが中学生位になったら、本書を参考にミッションを中学生向けにアレンジし、子供たちにも早くGISを触れさせたいと思う。

書評:田端謙一(国際航業株式会社)