センサーシティー:都市をシェアする位置情報サービス

書評




『センサーシティー:都市をシェアする位置情報サービス
神武直彦監修、中島円著
発行:インプレスR&D
発売日:2017/9/29
1,728円(Kindle版 1,296円)

著者は、国際航業に勤務しつつ、慶應義塾大学で特任准教授を勤めているマルチワーカーである。著者は、かずかずのセンサーに支えられている都市を、センサーシティーと呼ぶ。この本は、センサーによって生み出され、実世界と仮想世界の間をシームレスに循環するデータと、それらを運ぶメディアに着目する。データの多くは、実世界の投影であるマップとして提示されるとする。そして著者は、そのような仕掛けがもつ意味を探り、市民が主役となって、メディアを通じて情報をやり取りする装置としての都市を思い描き、自分たちで都市を共同で創り出す、つまり人々が都市を「共創」し始めていると述べる。
 この本でまず、著者は「都市で生活している私たちはすでに多くのセンサーに囲まれている」と述べる。電車に乗るときは、改札口にカードをセンサーに読み取らせている。自分で携帯しているスマホでは、GPS、ジャイロ、加速度センサーその他のセンサーが働いている。カメラやマイクだってセンサーである。
 この本には、実に多くの事例が紹介されている。それらを拾い読みするだけでも、今日の社会はどのように変貌しつつあるかが理解出来る。東京駅では、リニューアルした時に、大掛かりなプロジェクションマッピングが行われたことは皆さんも覚えていると思うが、映像は固定したスクリーンから飛び出し、ビルの壁や道路に投影され、ポケモンGOを始めとする位置情報ゲームにハマったオタクたちが、部屋を出て街にあふれたことも記憶に新しい。著者はシンガポール、ニューヨークといった、世界中の先進都市の事例も紹介している。そして、ボランティアとして市民が行政に協力して、ゴミ出し情報提供や、保育園マップといったアプリケーションの開発と提供を行っている例を紹介する。さらには、著者が直接関わっていることであるが、Football for Familyをテーマとする、サッカーの未来を考える試みも報告している。
 20世紀は経済と効率化の世紀であった。多くのものやお金を自ら所有し、より速くなにかができることが人々を幸せにすると言われてきた。しかし、そのようなパラダイムは今日、限界に達しつつあり、先進国の人々は多様性を是認し、心の豊かさとゆとりを求める方向に舵をきっている。我々には、新たな哲学が必要である。その中には、デザインやテクノロジーの意味の見直しも含まれる。本書はそのようなことを考える上でも、さまざまな材料をあたえてくれる。コンパクトな本であり、オンデマンド・パブリッシングの形態をとり、Kindleで電子書籍としてダウンロードすることもできる。電子書籍の方が400円以上安いし、挿絵や写真はカラーになる。ちなみにこの書評は、Kindle for Macを使用して、本をディスプレイの左側に出し、それを見ながらテキストエディターを使って作成した。おすすめの一冊である。

書評:太田守重(国際航業株式会社フェロー、武蔵野美術大学非常勤講師)