ナローマルチビーム測深は、ナロー(細かい)マルチ(複数の)ビームによる測深が名前の由来です。言葉のとおり、測量船等に搭載した音波送受波器から進行方向に対して左右方向(横方向)に音波を発振し、前後方向(縦方向)のスリットから水底を見ることにより、送波ビームと受信ビームのクロスした面の音波を捉え、受信時間(反射時間)から距離(水深)を得ています。現在、一般的に普及している機器は、左右方向の音波の発振角度が90~160°(片側45~80°)で、一度の測深作業で水深の2倍~10倍幅の水底地形情報を得ることができます。
取得した詳細な水底地形データは解析技術やGIS(地理情報システム)等の情報通信技術の発展に伴い、海図作成をはじめとして、港湾・浚渫工事、海底パイプライン等敷設調査などの開発事業、津波・高潮からの海岸背後地防護、ダム貯水池堆砂量や河川河床高、港湾施設の洗掘状況確認といった維持管理分野、そして近年では海底資源エネルギー開発に関わる探査・調査に活用されるなど水域での事業活動における基礎技術として多岐にわたり利用されています。
本技術は1960年代に米国海軍により開発が始まり、1980年代には民生利用が開始されるようになりました。日本では1994年に民間企業が初めて導入し、1995年に海上保安庁が測量艇に装備して以降、現在では海岸・港湾・ダム貯水池で詳細な水面下地形を取得するための技術として公共事業を中心に広く普及しています。また、1996年阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災といった大規模災害時には、早期に物資運搬船の航路を確保するための障害物調査や、水中構造物の被災状況確認に利用され、復旧復興のための基礎資料の提供により大きく貢献しています。
(2014年12月22日 初稿)