時間スキーマ

ある展覧会が令和4年6月15日に開幕し、令和4年8月28日に閉幕したとしましょう。この展覧会の開催期間を記録したい場合に、ある人は、開幕日と閉幕日で表現するかもしれません。別の人は、開幕期間を令和4年の6月中旬から8月下旬と表現するかもしれません。さらに別の人は「令和」という元号や年を省略してしまうかもしれません。このように、時間の記述方法がばらばらだと、データの理解が難しくなります。そこで、時間の記述に時間スキーマを使用すれば、記述のルールが理解しやすくなり、データの流通性や共用性が向上します。時間スキーマは国際標準化機構(ISO)の国際標準 [1] になっており、これに整合する日本産業規格 [2] もあります。

時間スキーマは、地物がもつ時間的な特性を記述するための概念スキーマです。例えば、使用しているコンピュータやオペレーティングシステムによって、記憶装置に蓄積されるデータの形式や構造が異なる場合がありますが、それとは独立に、一般的な規則に従って定義したデータのモデルを概念スキーマと言います。従って、時間スキーマは地物の時間特性を記述するための、個別のシステムとは独立した、データモデルです。これに従ってアプリケーションができていれば、利用者は概念スキーマを理解するだけで、複数のアプリケーションを使うことができます。

さて、建物の建設年月日や道路の供用開始から廃止になるまでの供用期間などは、地物がもつ時間的な特性であり、時間属性といわれます。時間属性には、「時間幾何属性」と「時間位相属性」があります。前者としては、瞬間(時間軸上の点)や、期間(開始点と終了点で区切られる時間軸上の線)があり、これらに含まれる時点は2015年9月12日午後1時49分のように、定量的な値として記述されます。また、後者としては時間ノードと時間エッジがあります。これらは、地物同士の先後関係を非巡回の有向グラフで記述する属性です。非巡回とは、回転しないという意味です。図1では、地物AとBは同時に発生し、AはD、BはC、DとCはE、EはFとGになったことを、それぞれの地物がもつ時間エッジの連鎖関係で示しています。A, D, B, Cからなる閉路がありますが、回転はしていません。もし回転すると、古いエッジが新しいエッジより新しくなるという現象が起きてしまいます。例えば、BとCの向きが逆だと、A→D→C→Bとなり、Bの次はAになります。これでは未来の後に過去が来ることになります。

図1.地物同士の時間位相関係を記述する非巡回有向グラフ(例)

また、時間軸上の幾何的な位置を決めるためには、時間記述の方式を示す時間参照系が必要です。時間参照系には、1)和暦や西暦のように一日を単位とする「暦」と、協定世界時日本標準時のように一日の中の時間を決定する「時計」、2)地質年代や歴史的な時代区分などで、地物同士の順序関係を記述する「順序時間参照系」、3)単純に整数や実数で時間経過を示す「時間座標参照系」があります。なお、暦については、明治5(1872)年の改暦以降の和暦など、グレゴリオ暦を含む様々な暦を定義するための概念スキーマも提示されています。

なお、地物同士の先後関係を詳細に記述しようとすると、Aが終わってBが始まった、だけではなく、Aが存在している間にBが誕生した、とか、Aが存在している最中にBが始まりAが存在している間にBが終わった、なども表現できるべきです。そこで、時間スキーマでは、Allen, J [3] によって示された12種類の時間関係を参考にして、finishをendに言い換えるとともに、equalsを追加して、図2に示す13種類の時間関係を記述できるようにしています。具体的には、時間プリミティブはrelativePositionという操作(関数)を持つことができ、これによって、他の時間プリミティブとの相対的な関係が13種類のうちのどれに該当するかを求められるようにしています。

図2.13種類の時間関係

[参考文献]
[1] ISO (2002) ISO 19108 - Geographic information - Temporal schema, ISO
[2] 日本産業標準調査会(2004): JIS X7108 地理情報-時間スキーマ, 日本規格協会
[3] Allen, J. F., Maintaining Knowledge about Temporal Intervals, Communications of the ACM, 1983, vol. 26 pp. 832-843

(2022年10月03日 更新)
(2016年11月02日 初稿)

English

Temporal schema

定義

時間スキーマとは、地物がもつ時間的な特性を記述するための概念スキーマです。