WKTは、機械及び人間が可読な、点、線、面といった幾何オブジェクトの表現をするためのコンパクトなマークアップ言語であり、表1に示すような表現ができます[1]。
表1.WKTによる幾何オブジェクトの表記
注)表1の中で、不規則三角網については、TINの項を参照して下さい。
WKTでは、幾何オブジェクトの要素である座標の単位や次元などを規定する座標参照系のパラメータもWKTで記述することができます。WKTはOGC (Open Geospatial Consortium) で開発されましたが、座標参照系のWKT表現規則を示すISO 19162 [2]では、ISO 19111 [3]に含まれる参照系を記述できるように、それまでの古い規格に準拠するWKT表現規則が拡張されているので、一般的に旧バージョンはWKT1、拡張バージョンは、WKT2と呼ばれます。
WKT記述規則はバッカス・ナウア記法 (Backus-Naur Form: BNF) [4]という方式を使って示されますが、例として、BNFによる時間座標参照系のWKT記述規則を示します。
この記述を解読すると、概ね以下のようになります。「時間座標参照系は、TIMECRSというキーワードをもち、座標系名称(英字を使用)、時間原子、時間座標系、適用範囲・地理的範囲・識別子・備考(任意)からなる」。なお、適用範囲・地理的範囲・識別子・備考の記述が任意であることは、上の記述からは読み取れませんが、この項目に関するより詳細な規定を見ると、それぞれの要素が任意であることが示されています。
次に、上記の記述規則に従う、WKT記述を示します。
TIMECRS ["GPS milliseconds",
TDATUM ["GPS time origin", TIMEORIGIN [1980-01-01T00:00:00.0Z]],
CS [TemporalCount,1], AXIS ["(T)", future, TIMEUNIT ["millisecond (ms)",0.001]]
]
このWKT記述を解読すると、概ね以下のようになります。「ミリ秒単位で測るGPS milliseconds(GPS時計のこと)という名称をもつ時間座標参照系(TIMECRS)は、1980年1月1日0時(協定世界時:UTC)を始点 (TIMEORIGIN)とするGPS time originという名称で示す時間原子(TDATUM)、及び、0.001秒単位(TIMEUNIT)で示す整数 (Temporal Count) で位置を示す、未来に向いた (future) 座標軸 (AXIS)で定義される座標系 (CS) で示される」。なお、適用範囲・地理的範囲・識別子・備考の記述は任意なので、ここでは、省略されています。
このWKT記述に準拠して表現された時刻の列は、例えば以下のようになります。
(5351236450450, 5351236450950, ...)
それぞれの整数は、1980年1月1日0時(UTC)から、ミリ秒単位で数えた時刻を表現しています。従って、1番目と2番目の時刻の間は500ミリ秒ある、ということになります。
[参考文献]
[1] John R. Herring (2011) OpenGIS Implementation Standard for Geographic information - Simple feature access - Part 1: Common architecture, Table. 6, Open Geospatial Consortium (OGC)
[2] 国際標準化機構(2019)ISO 19162: Geographic information - Well-known text representation of
[3] 国際標準化機構(2019)ISO 19111: Geographic information - Referencing by coordinates
[4] 国際標準化機構、国際電気標準会議 (2011) ISO/IEC 9075-1 Information technology — Database languages — SQL — Part 1: Framework (SQL/Framework)
(2022年08月30日 初稿)