応用スキーマ

ここではまず、応用スキーマとは何かについて解説します。次に応用スキーマの実例を紹介し、最後に若干の補足事項を述べます。

応用スキーマとは「一つ以上の応用システムによって要求されるデータのための概念スキーマ」です[1]。それでは、応用システム、データ、そして概念スキーマとはなんでしょうか。

応用システム(application system)とは、オペレーティングシステムなど、コンピュータの基本機能をつかさどるソフトウェア上で、特定の目的のために働くソフトウェアを指します。応用システムはアプリケーションとも言われます。その例として日常的にはワープロソフトや表計算ソフトなどがあり、地理データを処理して情報を提供する、GIS (Geographic Information System)、LBS (Location Based Service)、そしてスマートフォンの地図サービスなどもあります。つぎに、データは互いに関連をもつ要素の集まりであり、独自の構造をもちます。その仕様は、作成者や利用者に誤解されないように、一般に知られた標準的な規則にしたがって厳密に記述されるべきです。そのような仕様が概念スキーマと言われます。

地理情報標準に含まれる「応用スキーマのための規則」[1][2](注1)は、応用システムの中で使われる、地理データの概念スキーマを記述するための規則であり、統一モデリング言語(UML: Unified Modeling Language)で記述することが規定されています。UMLは言語規則を示す言語(メタ言語)ですが、この場合の言語は、テキストではなく、機械の設計図のように、図で表現するグラフィック言語です[3]。

一方でUMLは地理情報分野の応用スキーマ記述のためだけのものではありません。そこで、地理データに特化した規則が、やはりUMLで記述されています。これを一般地物モデル (GFM: General Feature Model)といいます。GFMや、それに従う応用スキーマは、UMLクラス図と言われる図で表現します。ここでは地理データは地物の集まりとして表現されます。そして地物同士には、例えば建物は道路に面しているとか、土地という地物は住宅地や農地の上位概念であるというように、地物相互に関係性がある場合があります。つまり応用スキーマは、一つ以上の応用システムが使えるように、GFMに準拠して作られる仕様です。そして、応用スキーマをGFMに従って記述することによって、異なる応用分野の人でも、GFMを理解していれば応用スキーマを理解することができます。

次に、GFMと応用スキーマについて、UMLクラス図を使って解説します。

図1 GFMの主要部分を簡略表現したUMLクラス図

図1は、応用スキーマのための規則[1]に示されているGFMの、主要な部分を取り出して表現したUMLクラス図です。このクラス図の要素はメタクラスと呼ばれ、応用スキーマの中で使用される地物とその関係の記述法を定めます。ちなみにメタクラスとは、その実例(インスタンス)がクラスになるようなクラスを指します。さて、この図で述べている規則を簡単に説明すると以下のようになります。

  1. 応用スキーマにおいて、地物及び地物関連は、GFMの地物型及び地物関連型のメタクラスが示す規則に従う型として定義する。
  2. 地物型のプロパティ(地物のありさま(様相)や属性を示す情報)は地物属性型、地物操作型、または関連役割型に分類される。
  3. 地物型(例えば「行政界」や「植生界」)は、より抽象度の高い上位型(例えば「境界」)からプロパティを継承する。
    4)地物属性型は地物がもつ固有の特性である(例えば、名称、所有者、形状、材質、設立年月日など)。
    5)地物操作型は地物が実行できる関数であり、実行結果を戻す(例えば、土地の面積を求める関数など)。
    6地物関連型は二つの地物の関連性を示す(例えば、「土地」と、その上にある「建築物」との関連性など)。)
  4. 関連役割型は他の地物との関連において果たす、地物の役割である(例えば、「建築物」は「土地」との関連で、「住宅」という役割をもつなど)。

図2 応用スキーマのUMLクラス図(例)

図2は、GFMに示されるメタクラスのインスタンスとしての地物型とその地物関連型などを記述した、応用スキーマのUMLクラス図です。この図で述べていることを簡単に説明すると、概ね以下のようになります。
1)クラス「道路」は属性として名称と形状、操作として延長距離を求めて実数で戻す関数、そして「建築物」の前面道路という役割をもつ地物型である。
2)クラス「建築物」は属性として名称、所有者、形状をもち、「道路」の沿道建築物という役割をもつ地物型である。
3)クラス「道路・建築物関連」は役割名として「道路」と「建築物」の役割名をもつ地物関連型である。
なお、図1のGFMでは省略しましたが、属性や操作はそれがどのように記述されるかを示すデータ型をもちます。例えば名称は「文字列」で表現され、延長は計算結果を「実数」として戻します。また地物地物関連は、複数のデータ要素や操作の集まりなので、単純なデータとは異なるため、地理オブジェクトとも言われます。

最後に捕捉的な事項を述べます。

応用スキーマに準拠する地理空間データを共用する場合は、実装のための符号化規則に基づくデータを作成します。例えば、XMLドキュメントにする場合はGMLという標準に基づく符号化規則(例えばCityGMLやIndoorGML)のほか、GeoJSON、TopoJSON、Shapefile空間データフォーマット(注2)などがあります。従って、地理空間データ製品仕様書の中では、応用スキーマとともに、符号化規則に準拠するデータ仕様が示されます。

一般的には、UMLはシステムの青写真を描くための標準的な方法を提供します[3]。実際UMLの教科書などをみても、例えばUMLクラス図は、システム内のオブジェクトタイプと、それらの間に存在する各種の静的な関係を記述するとしており[4]、応用システムに出し入れするデータの仕様とは述べられていないことに留意すべきです。つまり応用スキーマは応用システムの設計図、もしくはその一部にもなります。

以上の解説の骨子をまとめると、図3のようになります。

図3.応用スキーマ解説のまとめ

注1:[2]で示した『JIS X 7109 地理情報-応用スキーマのための規則』は、ISO 19109:2005を翻訳した一致規格です。ISO 19109は参考文献[1]に示すように、その後改訂されていますので、この用語解説では、[1]を参考にしています。

注2:ShapefileやShapeがフォーマット名であるとする向きもありますが、参考文献[5]ではthe shapefile spatial data formatとしています。

[参考文献]
[1]ISO 19109:2015 - Rules for application schema
[2]日本工業標準調査会審議(2009)『JIS X 7109 地理情報-応用スキーマのための規則』, p.3,日本規格協会
[3] OMG, https://www.omg.org/technology/readingroom/UML.htm (2021-11-16 確認)
[4]マーチン・ファウラー著、羽生田栄一訳(2005)『UMLモデリングのエッセンス第3版』, p.35, 翔泳社
[5] ESRI, ESRI Shapefile Technical Description (1998),
https://www.esri.com/content/dam/esrisites/sitecore-archive/Files/Pdfs/library/whitepapers/pdfs/shapefile.pdf (2021-11-19 確認)

(2021年11月26日 更新)
(2016年11月02日 初稿)

English

Application Schema

定義

応用スキーマとは、一つ以上の応用システムによって要求されるデータのための概念スキーマを指します。これにより、応用システムの設計者・作成者・利用者の間でデータ仕様を正確に伝達でき、地理データの相互利用促進を図ることができます。