洪水浸水想定区域図

洪水浸水想定区域図は、水防法第14条の規定に基づき、洪水予報河川、水位周知河川の管理者である国または都道府県が作成するものです。
作成に際しては、想定しうる最大規模の降雨(以下では「想定最大規模降雨」といいます)による洪水氾濫の範囲、浸水深等を予測し、洪水浸水想定区域図として整備します。また、これを公表し、市町村長に示します。
市町村長は、洪水浸水想定区域図をもとに避難場所その他の必要な防災情報を加えて、洪水ハザードマップを作成し、住民等に周知することになっています。
なお、浸水想定区域図では、最大浸水深を0.5m(1階床高に相当)、3m(2階床下に相当)、5m(2階が水没する深さ)、10m、20mの区切りで色分け表示し、避難行動との関連を想起しやすくしています。

洪水浸水想定区域図の作成手順は、以下のとおりです。
①河道内の流量予測のための河道縦横断形状モデルの作成
河川氾濫解析のための地形標高モデルの作成
想定最大規模降雨の算定
想定最大規模降雨時の河川流量の予測
⑤堤防決壊や溢水による河川からの流出量の予測
洪水氾濫の予測
⑦浸水の範囲、最大浸水深、浸水継続時間を示す地図の作成
この際、堤防決壊の想定箇所ごとに複数ケースの氾濫解析を行い、各地の浸水状況を予測しています。これより、全ケースの最大浸水深と最大の浸水継続時間を求め、様々な洪水に対応する予測としています。
また、想定最大規模降雨のほかに、河川計画規模の降雨による最大浸水深を予測し、合わせて公表しています。

なお、避難開始が遅れた場合には、避難途上の危険回避のため、垂直避難をした方が良い場合があります。これは、すでに激しい風雨や浸水が起きている場合などに、無理をして避難所に向かうと、かえって危険なため、自宅の2階や直近のビルの高い階に移動して安全を図るものです。
しかし、垂直避難は洪水による浸水継続時間が短く、浸水深が浅い場所でこそ有効な方法で、激しい氾濫流や河岸侵食が起こる場所では、建物自体に倒壊や流失のおそれがあります。そこで、このような危険のある範囲を予測して、家屋倒壊等氾濫想定区域として公表しています。この区域内では、早期の避難が必要です。

洪水浸水想定区域図は、河川管理者(国の河川事務所、都道府県)のホームページで公開されています。
例えば、国土交通省関東地方整備局の荒川上流河川事務所・荒川下流事務所の該当ページを見ると、甚大な影響が予測されていることが分かります(2020年9月現在)。

最後に洪水浸水想定区域図の歴史を振り返っておきます。
平成13(2001)年の水防法改正により、洪水予報河川を対象とし、河川計画規模の降雨に対する浸水想定区域の予測と指定が始められました。
その後、平成17(2005)年の法改正で、対象河川を水位周知河川に拡大しました。
平成27(2015)年の法改正では、河川計画規模の降雨から想定最大規模降雨に対する洪水氾濫予測に改められ、名称が洪水浸水想定区域図に変更されました。
浸水解析の手法、条件や、洪水浸水想定区域図の表示、提供、保管の方法などは「洪水浸水想定区域図作成マニュアル」に定められています。
また、想定最大規模降雨の設定方法は、「浸水想定(洪水、内水)の作成等のための想定最大外力の設定手法」に定められています。
このように、水防法改正のほか、各種のマニュアル、手引き、ガイドラインを適宜改定し、適用することで、洪水浸水想定区域図の適用範囲や内容が改まっています。

(注)用語「河川氾濫解析・浸水想定区域図」(2016年09月07日 初稿)を改め、新たに2つの用語「河川氾濫解析」「洪水浸水想定区域図」として説明しています。

(参考文献) 
国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室、国土技術制作総合研究所河川研究部水害研究室(2015):洪水浸水想定区域図作成マニュアル(第4版).
国土交通省水管理・国土保全局(2015):浸水想定(洪水、内水)の作成等のための想定最大外力の設定手法.

(2020年11月13日 初稿)

English

Flood Prone Area Map

定義

洪水浸水想定区域図は、洪水時の円滑で速やかな避難のために、想定しうる最大規模の降雨による洪水氾濫を事前に予測し、その浸水範囲や浸水深などを示した地図です。予測の対象となる河川は、全国の洪水予報河川、水位周知河川で、浸水が予測される範囲は洪水浸水想定区域として指定されます。