港湾施設には、船舶の航行を支える水域施設、防波堤や堤防などの外郭施設、船舶が停泊するための係留施設などがあります。これらの施設は潮流や波、風などの厳しい自然環境に常にさらされているため、定期的な点検と早期の補修が不可欠です。点検の目的は、構造物の変状や劣化を早期に発見し、必要に応じて適切な対策を講じることです。
点検には、まず、施設の初期状態を把握する「初回点検診断」があり、これは新設または改修された施設を対象に、将来の維持管理の基礎データを取得します。次に、日常的に行われる「日常点検」では、外観や機能に異常がないか確認します。さらには、施設の重要度に応じて、3 5年に1度実施される「定期点検診断」、地震や台風などの災害後に行われる「臨時点検診断」もあります。定期点検では、施設全体を目視確認し、変状や劣化の状況を調査します。また、詳細点検が必要な場合には、潜水士による水中調査やレーダ探査機を用いた空洞調査が行われ、陸上からの目視では確認できない内部の劣化や損傷を把握し、施設の寿命を延ばすための対策が講じられます。
定期的な点検診断は、点検技術者が岸壁上や船上から目視確認を行う作業が中心で、複数の施設を対象とするため、多大な労力がかかります。したがって、現場では、より効率的で安全に実施できる点検方法が強く求められています。最近では、このような社会的ニーズを受け、陸上部ではUAV(ドローン)・AIを活用した点検診断、水中部では水中3Dスキャナ、遠隔操作型ROV(水中ドローン)などを活用した計測手法が開発されています。
[参考文献]
インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議 平成25年11月: インフラ長寿命化基本計画
国土交通省 港湾局 平成26年7月(令和3年3月 一部変更): 港湾の施設の点検診断ガイドライン
国土交通省 港湾局 平成27年4月(令和5年3月 一部変更): 港湾の施設の維持管理計画策定ガイドライン
日本港湾協会 平成30年5月: 港湾の施設の技術上の基準・同解説
一般社団法人沿岸技術研究センター 平成30年7月: 港湾の施設の維持管理技術マニュアル(改訂版)
(2024年11月25日 初稿)