農林水産省では、作物の生産に関する実態を明らかにするため、作物ごとの作付面積を調査しています。調査は現地での標本確認によって実施されていますが、調査には多大な時間と労力を要するため、調査精度を維持した作業の省力化・効率化が求められています。
こうした作付面積調査の課題、特に水稲作付面積調査をめぐる課題に対応するため、衛星画像と面積調査の基礎となる農地ごとの区画情報のGISデータを組み合わせて解析することで、調査精度の維持向上や効率化が図られるよう検討されています(農林水産省, 2015)。
この検討にはSAR(合成開口レーダ)衛星が用いられています。SARはマイクロ波を地面に当てて、帰ってくる信号の強さや時間から地表を観測しますが、マイクロ波はセンサから地表に垂直に照射されるのでは無く、斜め方向に照射されます。このため、水面ではマイクロ波の入射方向と反対方向に反射してしまい、センサに帰ってくる信号は非常に弱くなります。一方、地表面に植物等がある場合は、植物に当たった信号が入射方向にも反射するため、センサに帰ってくる信号は強くなります。水稲作付圃場を観測したSAR画像では、水が張られる田植期直前から草丈が低い田植期直後までは水の特性が強く出ますが、生育期は稲の草丈が50cm程度まで生育するため植物の特性が強く出ます。この特性を生かして、水稲の生育時期(田植期・生育期)に合わせてSAR衛星による観測を行なうことで、圃場に水稲が作付されているか否かを分類できます(図1)。
SAR衛星の画像を用いることで、水稲の生育期に雲に覆われることの多い地域においても、広域を一度に観測することができ、圃場のGISデータと組み合わせた解析を行なうことで、圃場に水稲が作付されているか否かを、科学的かつ効率的、さらに高精度で把握することが可能です。
参考文献
・農林水産省(2015): 平成27年度食料・農業・農村施策,pp.1-32
(2019年05月15日 更新)
(2015年12月02日 初稿)