自然地盤は、長い年月の風雨・地震にさらされた結果、安定勾配となっています。道路工事や、宅地造成などのために、斜面を削り勾配を急にすると表面部分が不安定になり、がけ崩れなどが発生しやすくなります。このような場合に斜面の安定を保ち、斜面下に安全な空間を確保する方法の1つがグラウンドアンカーです。
グラウンドアンカーの仕組みを、私たちに身近にあり引張り力をイメージしやすい「ゴム」に置き換えて説明します(図1)。
①地盤に穴を掘ります。穴の先端付近にゴムの一方を固定します
②ゴムを引っ張ります
③ゴムを引っ張ったまま、ゴムのもう一方を地表に固定します
④ゴムに挟まれた地盤は、ゴムが元に戻ろうとする力で締め付けられます。締め付けられたた部分は動かなくなります。
なお、実際の工事でゴムに当たる部分は、細く、硬い(引張りに強い)鋼材が使われます。また、固定する部分には1mを超える硬い板状の受圧板(写真1)、コンクリート製の受圧板や、のり枠(写真2)などが用いられます。
グラウンドアンカーが最初に用いられたのは、1934年にアルジェリアのシェルファ(Ceurfas)ダムといわれ、日本では1957年に藤原ダムの副ダムに設置されました。その後、改良が加えられながら普及し、「法面・斜面の安定対策」、「ビル、道路等の建設工事のため地盤を掘り下げる際の作業空間の確保」、「橋脚、ビル等構造物の転倒防止」など様々な場面で活用されています(図2)。
グラウンドアンカーも、コンクリート構造物と同様に以前は維持管理の必要がない構造物と考えられていました。近年になって、材料の経年劣化等による機能(強度)の低下が知られるようになり、点検が行われています。地盤内部にあるグラウンドアンカーを直接見たり、触れたりはできないため、引張り試験を行い、健全性を評価します。
参考文献
社)地盤工学会(2012):「グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説 (JGS4101-2012)」,pp.1-20,丸善出版
(社)地盤工学会(2005):「グラウンドアンカー設計・施工例 -第一回改訂版-」,pp1-7,丸善出版
国土交通省砂防部、(独)土木研究所(2008)「地すべり防止技術指針及び同解説」,pp112-113,(社)全国治水砂防協会
(2016年10月26日 初稿)