生態系サービス

生態系サービスとは、生物多様性を基盤とする健全な生態系から、人類の生存や福利に貢献するために享受される有用な恩恵(恵み)のことです。古くは「自然の恵み」と呼ばれていましたが、近年、その重要性が科学的・経済的な観点から再評価され、国際的な共通概念として確立されました。

この概念は、2000年代初頭に国連主導で実施されたミレニアム生態系評価(MA: Millennium Ecosystem Assessment)によって体系化されました。MAは生態系サービスを、人間の生活と福祉への貢献度に基づき、以下の4つの主要なカテゴリーに分類しました (Millennium Ecosystem Assessment, 2005)。

1.供給サービス(Provisioning Services):食料、水、木材、燃料、医薬品など生活に必要な資源を提供するサービス。
2.調整サービス(Regulating Services):気候の安定化(CO2吸収)、洪水の抑制(森林や湿地)、水質浄化、病害虫の制御など、環境を安定・調節するサービス。
3.文化的サービス(Cultural Services): 観光、レクリエーション、美的な享受、科学・教育の基盤など、精神的・文化的な豊かさをもたらすサービス。
4.基盤サービス(Supporting Services): 栄養塩循環、土壌形成、一次生産など、上記3つのサービスが機能するための基盤となるプロセス。TEEBの分類では、これらは「生息・生育地サービス(Habitat Services)」として整理されています。

生態系サービスが劣化すると、食料生産の不安定化や自然災害リスクの増大といった問題が顕在化し、最終的に人間の安全や生計を脅かします。例えば、森林の過剰伐採は、洪水調整機能や水質浄化機能を低下させ、下流域に大きな災害と経済的損失をもたらします。

国際社会では、生物多様性の損失が生態系サービスの維持を困難にしているとの認識が広がり、サービスがもたらす経済的価値を評価する取り組み(TEEB: The Economics of Ecosystems and Biodiversity)なども進んでいます (TEEB, 2010)。TEEBでは、MAの「基盤サービス」を、生物の生存場所や遺伝的多様性の維持を重視する観点から「生息・生育地サービス」と定義している点が特徴です。これにより、自然保護が単なる環境問題ではなく、経済成長と社会の持続可能性に不可欠な「資本」であるという視点が定着し、国際的な協調のもと、生態系保全に向けた国際的な協調と政策策定が進められています。

[参考文献]
Millennium Ecosystem Assessment (2005): Ecosystems and Human Well-being: Synthesis. World Resources Institute, Washington DC.
TEEB (Pushpam Kumar 編集) (2010): The Economics of Ecosystems and Biodiversity: Ecological and Economic Foundations. Earthscan, London and Washington.

(2026年3月17日 初稿)

English

Ecosystem Services

定義

 生態系サービスとは、生物多様性を基盤として構成される健全な生態系から、人類の生活や福利に貢献するために享受される、食料供給や気候調整などの有用な恵みのこと、を指します。