農業リモートセンシング

地表面の物体から反射もしくは放射される光の波長特性をセンサで観測することで、対象物の情報を取得することができます。この光の波長特性は対象物によって異なり、仮に同じ種類の対象物、例えば同じ圃場で生産されている農作物であっても、生育状況や品質によって異なります。この特性の違いを用いて、農作物の種類や生育状況、品質などを把握できます。図1に小麦の例を示しますが、左上の画像で生育が良い範囲はオレンジ色、生育が悪い範囲は黄色~黄緑で表されています。左下および右側の写真は、画像上の番号に対応する箇所の小麦と現地の状況を示したもので、両者の対比から衛星画像の分析結果が小麦の生育状況をよく捉えていることがわかります。

図1 衛星画像から把握した小麦の生育状況と圃場の状態の比較

左上:小麦圃場を観測した衛星画像と生育状況の分析結果
左下:小麦の生育状況(作物高の比較)
右:小麦の生育状況(生育密度の比較)
使用した衛星画像:RapidEye Includes material © (2014) BlackBridge AG. All rights reserved

把握したい情報によって適切な光の波長帯は異なりますが、農作物の生育状況や品質と近赤外の波長帯には相関があります。この特性を活用した代表的な指標として正規化植生指数(以下NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)があります。NDVIは植生の活性度や葉の量との相関が高く、農作物の生育状況や品質を把握することができる(安積,志賀:2003、安積 ほか:2006)ので、営農支援をするための情報の一つとして利用されています。実際、リモートセンシングで得られた生育状況などの作物管理に関する情報提供は民間サービスとして既に行われており、GISやインターネットなどを利用して農家の方々に情報が提供され、効率的な営農に貢献しています。また農林水産省では、マイクロ波を照射するSAR(合成開口レーダ)を活用することで水稲作付面積調査の効率化について検討を行なっています。

一方、数が限られる大型衛星によるリモートセンシングでは、重要なタイミングに観測が出来ない、データ入手費が高い等の理由により農業分野での利用が広がりませんでした。しかしながら、近年は超小型衛星と言われる100kg以下の衛星を複数機打ち上げたり、UAV(無人小型飛行体)を活用したりすることで、高解像度の画像を高頻度で取得できる環境が整いつつあり、データ入手費も安くなっていることから、農業に関わる様々な分野においてリモートセンシング技術の実務利用の拡大が期待されています。

参考文献*
・安積大治,志賀弘行(2003): 水稲成熟期のSPOT/HRVデータによる米粒蛋白含有率の推定. 日本リモートセンシング学会誌,23(5): 451-457
・安積大治,林哲央,志賀弘行(2006): 衛星リモートセンシングによる秋まき小麦子実蛋白含有率の推定技術. 日本土壌肥料学雑誌,77(3): 317-320

(2015年11月17日 初稿)

English

Agricultural Remote Sensing

定義

衛星、航空機、UAV、地上などの各種プラットフォームに搭載された様々なセンサで取得された情報を解析することで、農作物の品質、生育状況を把握することです。