コンクリート劣化診断

笹子トンネルの天井板崩落事故やコンクリートの落下事故などを契機として、近年、高齢化する社会インフラ、とくにコンクリート構造物の維持管理が社会的な課題となっています。コンクリート構造物は定期的な点検の実施によって健全性を診断して維持管理計画を策定し、計画に基づく調査や修繕を行って長寿命化を図っています。この一連の流れの最も基本となる、コンクリートのひび割れや浮き・剥落などの劣化状況(図1)からその要因を推定・把握することが「コンクリート劣化診断」です。人間に例えるならば、社会インフラやコンクリート構造物の維持管理におけるコンクリート劣化診断は、診察や検査を実施して原因を特定するお医者さんの役割に該当します。

コンクリートの劣化は、建設時の不具合や経年的な物理的・化学的変状の影響、継続的な外的応力の影響など、種々の要因が複雑に絡み合って発生・進行するため、表面的な劣化の状況だけでなくこうした劣化の原因を把握することが、コンクリート構造物の適切な維持管理を行う上で非常に重要となります。お医者さんは患者さんの病気の症状を把握する際、診察や必要な検査を行って病気の原因を特定し、患者さんの健康を回復あるいは維持していくために治療を行っていきます。お医者さんが診察や検査の結果からの判断を誤ると、患者さんは適切な治療が受けられないため、その役割は重要です。

社会インフラを維持管理する国や自治体などでは、お医者さんが適切な診察を行うためのコンクリート劣化診断に必要となる経年変化や劣化度合い、適切な治療を継続していくための維持管理・更新に必要な経費などの正確な情報を把握・蓄積し、見える化してメンテナンスサイクルを着実に回すための情報の共有化を推進しています。この中では、地域住民との協業によるインフラの点検や情報提供も検討されていて、お医者さんと患者さんのみならず、その周囲の人の協力も得ながらインフラの維持管理を進めていこうとしています。


図1 可視画像からひび割れなどの変状を抽出した事例(コンクリート構造物の劣化診断を行うための基礎資料)

(2015年11月18日 初稿)

English

Deterioration Diagnostic for Concrete Structure

定義

コンクリートのひび割れや浮き・剥落などの劣化状況からそのの劣化要因を把握することです。