1997年1月2日、ロシア船籍タンカー「ナホトカ」号が、島根県隠岐島沖の水深約2,500 mの海底に沈没する事故が発生しました。この事故により海上に流出した重油は、福井県をはじめ日本海沿岸の10府県におよぶ海岸に漂着し、海域環境や人間活動に大きな打撃を与えました。一方、東京湾、伊勢湾、大阪湾は、日本海に比べ船舶交通量が格段に多く沿岸に多くの石油備蓄基地が立地しているため、船舶の座礁や地震による施設の倒壊により油流出事故の発生する危険性が高く、事故発生時にはその被害は甚大なものになると考えられます。
油流出事故では、海上での回収作業と同時に、流出油の漂着が予測される海域へ適切な油防除機材を配置することが重要となりますが、精度の良い流出予測には流出油に関するデータ(流出箇所、流出量、流出時間、流れ、風など)をリアルタイムで取得することが大切です。
海上に流出した油は、海面上に非常に薄く広がりながら流れに乗って移動していきますが、油は界面近傍の風の影響を大きく受けながら移動することが知られています。これは流出した油は海水と異なり重力と表面張力の作用により油膜を形成しながら広がることが要因です。これらのことから、流出油の移動予測では、海面の流れをリアルタイムで観測できる海洋レーダや風向風速などのテレメータ情報を活用することで、予測精度が大きく向上することが期待されています。
(2015年11月16日 初稿)