社会的包摂(social inclusion)は、社会的排除(social exclusion)を否定する活動です。社会的排除とは、人権の保護になくてはならない権利・機会・資源などから特定の個人をブロックすることを指します。例えば、雇用機会・医療サービス・行政手続き・住宅の選択などから特定の個人がブロックされる場合があります。これらの不公正を排除し、ブロックされる人々を可能な限り少なくし、社会に包み込まれるように援助する活動を、社会的包摂、ソーシャル・インクルージョンまたは、省略してインクルージョンと言います[1]。これを実現するためには年齢・性別・性的指向・障害・国籍などの社会的差異を克服することが望まれます。日本では「インクルーシブ」と言われることがありますが、inclusiveは形容詞なので、ここでは、socialという形容詞を冠した名詞にする意味で、インクルージョンとしています。
社会的包摂は、SDGsの目標にも含まれています。また、この考えを世界的な視野で広めようとしている民間セクターの活動として、人権保護・不当労働の排除・環境問題への対応・腐敗防止を目的として国連に設けられた、グローバル・コンパクト(UNGC)などがあります[2]。
社会的包摂は最近始まったことではありません。例えば視覚障害者誘導用の点字ブロック、盲導犬、点訳のボランティア活動、映画の字幕や音声案内、そして歩道の段差解消や駅のエレベータ設置といった社会基盤のバリアフリー化などがあります。また、日常使用する製品・建物・生活環境・ピクトグラムなどを、できるだけ多くの人々に使いやすいようにデザインするユニバーサルデザインは、着実に社会に浸透しています。
さらに今日では、多様な人々が交流し、協働する環境を提供する場も着実に増加しています。例えば、さまざまな人が繋がることを意図して作られた談話スペース・キッチン・図書スペースなどを備えた交流施設、障害者の就労支援も行なっているカフェ、重度障害のある方々の日中の生活を支援するサポートセンター、そして、これらの施設に集まる人々との交流機会をもつ保育園などが併設された複合施設があります[3]。
また、障害者雇用の促進と安定を図るため、障害者の雇用において特別の配慮をする子会社(特例子会社)を設ける会社があります[4]。一定要件を満たし、厚生労働大臣から認定を受けると、特例子会社で雇用された障害者は親会社やグループ全体の雇用であるとみなされ、全体として実雇用率を算定することができるようになります。さらに、この会社の従業員が親会社の業務を共同でおこなう機会を活用し、ノーマライゼーションを基盤としたダイバーシティ[5]の実現、つまり年齢の高低や障害の有無といったことに関係なく、多様な価値観を認め合い生活や権利などが保障された環境を、親会社と共に目指すこともできます。また、それぞれの顧客に対して、このような経験を踏まえた提案を行う可能性も生まれるでしょう。
しかし、依然として解決すべき課題が多いことも事実です。例えば、民間企業の法定雇用率は2.3%ですが、2022年6月1日現在の達成企業の割合は48.3%であり、対前年比は1.3ポイント上昇にとどまります[6]。さらに今後、法定雇用率は段階的に引き上げられ、2026年7月には2.7%にすることが決まっています[7]。また、日本の男女格差については、全体として先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国、中国、そしてASEAN諸国より低いと言われています[8]。したがって私たちは、現実を客観的に認識し、社会的包摂の方向に向かって、さらに努力を重ねる必要があります。
[参考文献]
[1] United Nations Department of Economic and Social Affairs, "Social Inclusion", https://www.un.org/development/desa/dspd/2030agenda-sdgs.html (最終閲覧日 2023年1月12日)
[2] United Nations Global Compact (2018) " Human Rights: The Foundation of Sustainable Business" https://www.unglobalcompact.org/library/5647(最終閲覧日2023年1月10日)
[3] 株式会社AiNest『会社概要』,https://www.ainest.jp/about, (最終閲覧日 2023年1月10日)
[4] 株式会社TDS『HOME』, http://www.tokyo-ds.co.jp/index.html, (最終閲覧日 2023年1月10日)
[5] 経済産業省(2021)『ダイバーシティ経営の推進』,https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html(最終閲覧日 2023年1月17日)
[6] 厚生労働省(2022)『令和4年障害者雇用状況の集計結果』, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29949.html(最終閲覧日 2023年1月16日)
[7] NHK (2023) 『企業の障害者雇用率 段階的に引き上げ 3年後に2.7%に 厚労省』 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230118/k10013953131000.html (最終閲覧日 2023年1月19日)
[8] 内閣府男女共同参画局総務課(2022)『世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表』,https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html(最終閲覧日 2023年1月16日)
(2023年01月23日 初稿)