昭和40年代から密集市街地における大規模火災延焼から安全を確保する場所として、広域避難場所あるいは広域避難地が検討され始めました。これは住民が生活圏内の避難場所等へ移動するだけでは火災の輻射熱から安全を確保できないことから設けられたものです。
2005年のハリケーン・カトリーナ(Hurricane Katrina)災害でアメリカ合衆国ニューオーリーンズ(New Orleans)市が広範囲に水没し、日本国内でも同様の大規模水害に備えた対策が必要であるとして、2006年に中央防災会議に大規模水害対策に関する専門調査会が設置され、東京区部などに広がるゼロメートル地帯では高潮等で行政区全域がほとんど水没してしまう場所があり、市区町村外への広域避難についての対策を強化する必要があることを報告しています。
災害対策基本法において、1960年制定当初から、住民の生命等を守る第一義的な責任は市町村にあり、避難場所の確保も市町村の責務とされてきました。しかし、2011年東日本大震災において発生した原子力発電所事故で、市町村外さらには県外への避難が必要となった事態を鑑み、2012年の災害対策基本法の改訂において、市町村・都道府県の区域を越える被災住民の受入れ(広域避難)に関する調整規程が創設されました。また、「水害ハザードマップ作成の手引き」でも、広域避難も含めた検討が必要であることが示されました。
広域避難における物資等の救援、保障などをどのように行うかについて、今後の課題と考えられます。
参考文献
大規模水害対策に関する専門調査会(2010):大規模水害対策に関する専門調査会報告 首都圏水没~被害軽減のために取るべき対策とは~,pp.129,中央防災会議
国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室(2016):水害ハザードマップ作成の手引き,pp.120
(2016年10月17日 初稿)