近年、失われた干潟、砂浜、海草藻場、サンゴ礁などの海岸環境を取り戻そうという自然再生事業が各地で行われています。また、高潮、侵食、津波などの災害から防護する海岸保全事業では、海岸の防護・環境・利用の調和の取れた施設整備と海岸管理が求められています。
そのような中、海岸環境の順応的管理は自然再生や環境保全の目標に対し、予め想定が困難な自然環境の変動、すなわち、取り戻したい、保全したい生物の生息や生息条件の変化を踏まえて、事業を少しずつ進めてはモニタリング調査を行い、目標を達成できているかどうかを確認しながら、想定通りになっていない場合には、再生の方法や施設整備内容の改善や手直し、工夫を加えて、より良い自然再生、環境保全を実現していこうとする枠組みです。この枠組みでは、行政や専門家だけではなく地域を良く知る市民、利用者などの多様な関係者の合意形成に基づいて対応していくことが重要です。
一例として、東京湾奥部に位置する千葉県市川海岸の海岸高潮対策事業では、環境の目標として護岸工事の影響としての「周辺生態系の保全」を掲げ、目標達成基準として海底の地形変化量、底質(粒度)の変化、潮間帯生物の定着を設定して、これらのモニタリング調査を、毎年工事が進捗するごとに実施して目標達成基準に対する検証を行い、専門家、市民及び利用者で構成される会議を開催して達成状況を確認しながら事業を進めています。
参考文献
・順応的管理による海辺の自然再生,平成19年3月,国土交通省港湾局 監修,海の自然再生ワーキンググループ 著,第Ⅰ編(総論).
・千葉県ホームページ:三番瀬・市川海岸塩浜地区関連
(2015年11月18日 初稿)