特定利用斜面保全事業

日本の海岸部では、山が迫り狭小な土地に生活基盤が形成されている所が数多く、東日本大震災のような大規模な地震の発生時には津波とがけ崩れの危険性に直面しています。そのような土地では、急傾斜地崩壊対策施設や地すべり対策施設の整備にあわせて斜面の頭部を切崩して平地を設け、造成した高台に公共公益施設用地や津波・高潮・火災等災害時の避難場所、港の見える公園等に整備することにより、災害を回避することが可能となります。特定利用斜面保全事業では、これらの整備を都道府県が主体となりその他の公共公益事業と調整をとることにより、地域の活性化を促進させます。

特定利用斜面保全事業は昭和63(1988)年より創設され、全国初の事業として平成9(1997)年に宮城県牡鹿郡女川町の堀切山で完成しました。本事業では堀切山周囲の急傾斜地崩壊防止工事を実施しつつ、堀切山頭部の掘削を行い、地盤高16mの高台に平地約1.6haの土地を創出しました。高台には女川町立病院等の医療施設や社会福祉施設等が造られるとともに災害時の避難場所として整備されました。平成23(2011)年の東日本大震災の際には、高台にある女川町立病院の1階は浸水したものの、更に高台にある“避難スペース”は津波による直撃を免れ、約1,000名という病院関係者や避難住民の命を守りました。

東日本大震災で有効性が確認された特定利用斜面保全事業は、被災地の復旧・復興に向け、津波で壊滅的な被害を受けた地域住民の移転先を創出する事業として期待されています。また、「防災集団移転促進事業」で造成に伴う急傾斜地崩壊防止工事を行う場合は、特定利用斜面保全事業と連携を図ることにより、事業主体の造成工事費の負担が軽減できます。

堀切山特定利用斜面保全事業 平成20(2008)年 国際航業撮影オルソフォトに図示

(2014年12月27日 初稿)

English

Specified useful slope conservation projects

定義

斜面の安定性を確保しつつ、危険な斜面を除去することで創出された空間を津波からの避難場所等として有効活用する事業が特定利用斜面保全事業です。