洪水氾濫


2000(平成12)年の東海豪雨、2004(平成16)年の新潟・福島豪雨、福井豪雨など近年相次いで発生した豪雨災害では、河川堤防の破堤により、人命および財産に大きな被害が生じました。2001(平成13)年7月、2005(平成17)年7月には水防法が改正され、浸水想定区域制度の創設・拡充や洪水ハザードマップの周知徹底が図られるなど、河川氾濫防災に関するソフト対策が推し進められています。

水害では、地形のわずかな高低差で浸水状況が異なるため、シミュレーションで用いる標高データには高い精度が求められます。

ここでは、高精度の標高データを用いた地形モデルを「詳細地形モデル」と呼び、これを用いた洪水氾濫シミュレーションについて説明します。

また、分かりやすい表現として、シミュレーション結果のビジュアル化について述べます。洪水氾濫シミュレーションの結果や浸水危険性については、3次元の立体的表示や動画のように視覚に訴えることで、より分かりやすく伝えることができます。

洪水氾濫シミュレーション

浸水想定区域図が作成されるまでのフローと、その中における詳細地形モデルおよび洪水氾濫シミュレーションの関係を「浸水想定区域図作成業務における洪水氾濫シミュレーションと詳細地形モデルの関係(図1)」に示します。洪水氾濫シミュレーションでは、洪水流解析によって河川水位の時間変化を追跡すると同時に、溢水地点や破堤地点から氾濫した水が市街地に広がる様子を氾濫解析によって計算します。氾濫した水は、流れの勢いや地表の標高に応じて流れていきます。 高速道路や鉄道といった盛土構造物がある場合は 流れが妨げられる一方で、盛土に設けられたボックスカルバートを通じて、盛土の反対側に水が伝播していくこともあります。このような水の流れを詳細に検討するためには、適切な計算手法とともに精緻な地形モデルが必要となります。特に、水害の場合は、標高の精度が計算結果に大きく影響するため、高精度の標高データを取得できる航空レーザ計測は、非常に有効な手段となります。

洪水氾濫シミュレーション結果の例を「洪水氾濫シミュレーション結果(図2)」に示します。一例として想定破堤時刻から4時間25分後の状況を示していますが、シミュレーションでは、各時刻の氾濫状況を時系列で求めることが可能となっています。

図1 浸水想定区域図作成業務における洪水氾濫シミュレーションと詳細地形モデルの関係

図2 洪水氾濫シミュレーション結果

シミュレーション結果のビジュアル化

図3は、シミュレーション結果を3次元の動画で表現したものです。背景には実際に空から見た視覚と同じになるよう航空写真を用いています。最近では、航空レーザ計測による高精度標高データや航空写真あるいは人工衛星による高解像度衛星 画像など3次元表示を行うためのデータが普及しています。



図3 シミュレーション結果の3次元動画表示例

今後の展望

都市域で頻発する内水氾濫の予測についても重要です。図4は、内水氾濫を簡易に考慮した都市域の洪水氾濫シミュレーションの例です。内水氾濫では、地表のわずかな標高差が浸水の有無に影響するため、航空レーザ計測による高精度の標高データは予測精度の向上のためにますます必要とされていくでしょう。

図4 都市域の洪水氾濫シミュレーションの例