積雪


冬になると日本のあちこちで雪が降ります。スキー、雪遊び、雪下ろし、通行規制、雪崩災害など雪には様々な側面があり、国土の6割を積雪寒冷地が占める日本では、雪との関わりは非常に深いものです。

その中で暮らす私達にとって、雪を有効に利用するため、雪崩をはじめとする雪害から身を守るために、雪の実態を把握することは非常に重要です。しかし、豪雪地帯では行動が制限される上に山岳地帯では雪崩の危険性が伴い、また春になればその姿を消してしまうため、雪の実態を把握することは非常に困難です。

そんな雪に対しては、広範囲を短時間で把握することができる航空機を利用した調査は非常に効果的です。航空レーザ計測により、雪面の高さを得ることができます。雪が尾根から庇状に張り出す雪庇の状況や、雪崩の堆積状況、これらの高さを持ったデータを得ることができ、雪崩や積雪に関する様々な調査が可能です。

航空レーザ計測による積雪深計測

積雪時期に実施した航空レーザ計測による雪面標高と、無雪期の地表面標高データとの差をとることで、積雪深の分布を得ることが可能となります。

図1は新潟県魚沼市の土樽地区の積雪深分布を示したものです。この地区では、2005(平成17)年12月25日に流下距離1kmを越える雪崩が発生し、県道及び高速道路に被害をもたらしました。沢沿いでは、積雪深が大きく、雪崩が堆積していることがわかります。沢沿いの積雪深は深いところでは30mに達しています。このように航空レーザ計測による積雪深分布図を作成することで、雪崩の堆積に関する実態を把握することができます。

図1 航空レーザ計測による積雪深分布図と陰影図の重ね合わせ図(データは2m×2mに1点)

詳細積雪深分布からわかること

地表面データからは傾斜や方位などの地形データを得ることもできるため、積雪深と地形との関係も解析されています。

雪崩の対策工は積雪深に応じてその大きさが決定されます。現状では、地形要因は考慮していませんが、その場の地形に応した積雪深がわかれば、より効果的な雪崩対策工を施工することが可能であり、地形に応じた積雪深を算定するモデルを作成することができます。

図2には図1に示した土樽地区における積雪深の傾斜との関係を示します。この図は傾斜を1°毎、積雪深を0.2m毎に区切った格子の中に入るデータの個数を示したものです。赤や黄色の暖色域では、データが集中していることを示します。これによると、積雪深は、傾斜30〜50°、3〜4mにデータが集中しており、傾斜によって積雪深の平均値は異なる傾向にあることがわかります。

図2 土樽地区における傾斜と積雪深の関係*1

傾斜1°毎、積雪深0.2mに区切った格子内の積雪深データ数

図3には他の地区も加えた傾斜と積雪深の関係を示します。これは傾斜ごとに積雪深の平均を算定し、その関係を図示したものです。平均の算定に当たっては、データ密度が極めて小さい点は除いています。地区によって多少の違いはありますが、傾斜が40〜45°を超えると積雪深は減少傾向となることがわかります。このような傾向をモデル化することで、積雪深の補正式が作成できます。傾斜に加え、斜面の方位や地形の凹凸度、標高等との関係をモデル化することで、より実態に即した積雪深分布モデルが作成可能となります。
地形因子を考慮した積雪深推定モデルでは地形規模や構造物の規模に応じて積雪深を推定できるため、構造物の種類に応じた設計高の決定に用いることが可能と思われます。

図3 傾斜と積雪深の関係

その他にも詳細な積雪深分布からは次に示すような用途への利用が考えられます。

●雪崩機構の解明(雪崩の堆積実態、雪崩発生域と微地形との関係、雪庇の状況)
●水資源としての積雪水量の詳細な把握

今後の展望

雪崩の発生機構や堆積実態は未解明な部分が多いのが実情です。これは雪崩に関するデータ取得が非常に難しく、データが不足していることに起因しています。航空レーザ計測により詳細な積雪深分布を把握することは、これら雪崩に関する問題を大きく解決する可能性を秘めています。雪崩の危険性がある中山間地では過疎化が進み、その防災体制も脆弱になりつつあります。したがって、そこでの雪崩の実態を明らかにすることは、防災体制の整備、人命を守ることにつながります。

また、雪は水資源としてだけでなく、冷熱エネルギーとしても注目されています。これら貴重な資源の「量」を把握することも今後ますます重要となるでしょう。

参考文献
*1 花岡正明 他(2007) レーザー計測を用いた積雪分布解析. 平成19年度砂防学 会研究発表会概要集:pp.524-525.